慶應義塾大学SFC
「x-DESIGN」坂井直樹教授による最終講義レポート

3月26日、慶應義塾大学SFC「x-DESIGN(エクスデザイン)」の初期メンバーのひとりであり、3月にSFCを退官する坂井直樹教授による最終講義がアクシスギャラリーで行われた。

「x-DESIGN」は、2008年に慶應義塾大学SFCに創設された、10の実験的工房(ラボ/研究室)から構成される大学院のプログラム。本イベントは、スタートから5年を迎え、これまでの研究活動と所属する10名の教員それぞれの思想的背景をまとめた書籍『x‐DESIGN―未来をプロトタイピングするために』(慶應義塾出版会)の出版記念として開催された。

坂井氏は、冒頭で「クリエイターのプレゼンテーションというものは、自慢話であり、懺悔でもある」と前置きした後、「デザイン的人生 1947〜2013」と題して、各時代背景と重ね合わせながら、65年にわたる自分史を語った。

幼少時は、百科事典を読むような、おとなしい子どもだったそうだ。その後、京都市立芸術大学に入学した頃から恩師に感化され、ヒッピー文化の中心であったサンフランシスコと京都を行ったりきたりする生活に。好きな言葉は、マクルーハンの「われわれは、われわれの見ているものになる」。ビートルズやウォーホールにも影響を受けながら、やがてファッション分野で時代の寵児となり、さまざまなメディアに取り上げられた。

40代になるとファッションからプロダクトへ「越境」。日産のBe-1をはじめ、山中俊治氏がデザインを手がけたオリンパスの「O-product」などヒット商品を次々と生み出す。ヒットの確率が高いのは、あえて人がやらない危ないほうに直感的に行くから、らしい。

50歳で高さ10mから落下し、足を折る大けがを負う。そして60歳になると突然「x-DESIGN」の教員に。個性的な先生方に刺激を受けながら、学生たちと情報を操る次世代の杖「NS_cane」をはじめ、新しいサービスについての実験を重ねた。

▲NS_cane

山中氏によると「坂井さんは、社会装置を素材としたインスタレーション・アートを行っていると見るのが正しい」。また、「おもしろい失敗をしましょう」とよく言われたそうだ。「デザイン自体には、元々さほど興味がない、僕より適性のある人がいるからね。でもデザインに関わるのは好きだし、デザイナーも好き」。

団塊の世代、筋肉質の65歳は、まだまだ社会で遊び続け、活躍することだろう。「楽しいと思うものをつくればいい」というメッセージは、実際にそうしてきた大先輩、坂井氏の言葉だけに後継者たちの大きな励みになったと思う。

▲直近の仕事は、オーストラリアワイン、ジェイコブズクリーク「わ」のブランディング

▲しりあがり寿氏から贈られた花。坂井氏の交遊の広さが伺い知れる。