© Ministry of Foreign Affairs of Denmark
前回デンマークは農業国ではなくIT先進国であることを紹介したが、本連載のタイトルにもある通り、日本再生につながるヒントについて説明したいと思う。デザインが発展するためには、やはりデザインを必要とする産業が重要となるが、高福祉国家で賃金が高めのデンマークにおいて製造業は衰退し空洞化が進展している。ただし、製造業でも価格競争に巻き込まれていないニッチ(特定)領域の製品はデンマークの主要産業として残っている。例えば、補聴器、高級オーディオ、風力発電機、福祉機器などである。 一方でデンマークは国家戦略として、ナレッジ・インテンシブ(知識集約型)の産業に資源を集約しており、その結果ICT、バイオテクノロジー、医療機器やクリーンテクノジー(環境技術)が競争力を持つに至っている。
そして、日本との関係で見ると、日本政府が推進している日本再生戦略の4つのプロジェクトのうち、グリーン成長戦略、ライフ成長戦略で挙げられている分野はデンマークとの連携が期待できる領域である。対象分野としてはグリーン・イノベーションによる洋上風車の技術開発、スマートグリッドなどの制御技術を活用したスマートシティの構築、生活支援ロボットの介護現場への展開などがある。
なぜ、こうした先端産業でデンマークとの連携なのか? むしろアメリカやドイツのほうが現実的ではないかと考えるのが普通だと思う。確かに日本は北欧の小国より、産業面ではアメリカや欧州他国とのつながりのほうが強い。
図1
デンマークとの連携意義は以下の2点に集約できる。1つは新しい産業はICTを中心に既存の技術の掛け合わせであることが多く、デンマークはその点で優位性があること。2つ目はデンマークと日本の産業構造は補完関係にあることである。技術の掛け合わせについて、例えばスマートグリッドはICTとエネルギー技術、ヘルスITはICTと医療、介護ロボットはロボット技術と福祉の掛け合わせというように、現在展開されている新しいソリューションはほとんどがICTと既存技術を融合したものであり、デンマークはこれらを開発するのに適した国であるとみられている。(▲図1参照)
また、日本との補完関係では、デンマークは製造業が強くないかわりに、アプリケーションなどに強みを有する。一方、日本はものづくりに強みを発揮するが、欧米と比べてややソフトウェア領域が弱いことがありデンマークと日本は互いに強み、弱みを補完できる最適なパートナーになりうる関係なのだ。(▼図2参照)
図2
そして、両国が推進しようとしている新産業に、デンマークが得意とする北欧デザインと幸福度世界1位の国をつくり上げたライフスタイルを組合せてソリューションが開発できれば、それは正しく共生(ともいき)デザインによる日本再生のヒントにつながると思うのである。(文/中島健祐、デンマーク大使館 投資部門 部門長)
中島健祐/通信会社、コンサルティング会社を経てデンマーク大使館インベスト・イン・デンマークに参画。従来までのビジネスマッチングを中心とした投資支援から、プロジェクトベースによるコンサルティング支援、特にイノベーションを軸にした顧客の事業戦略、成長戦略、市場参入戦略等を支援する活動を展開している。デンマーク大使館のホームページはこちら。