vol.28
「ペグトップ」

かなり以前のことだが、ミキサーや撹拌器などを使わずに、その中を通すだけで2つの異なる液体を均一に混ぜることのできる管の技術を見たことがあった。内部に真円の断面を二分する隔壁があり、それが緩やかな捻りを伴って管の長さ方向に延びている。そして、90度捻ったところで、それと直交する位置から次の隔壁が始まるのだ。

この構造が繰り返されることで、その中を流れる液体は、数十センチほどの距離を進むだけで完全に混合される。可動部がないため保守も用意で、コストも安く、いずれにしても工場内などでの液体の搬送には何らかの配管が使われるので、その部分を置き換えるだけでミキシングができるという優れたアイデアだった。

ロシアのガヴリローヴァデザインが手がけた「ペグトップ」というグラスの存在を知ったとき、その管のことを思い出した。

この「ペグトップ」は、中央にペグ(杭、突起)を持つソーサーと、底部にそのペグに対応する凹みのあるグラスの組み合わせからなり、自由に回転できるようになっている。グラスの側壁にはカーブした溝が高さ方向に設けられており、なかの液体が溝の内側に当たって対流のような動きが生まれることで撹拌される仕組みだ。

マドラーやスプーンなどなしに、砂糖や氷を入れたドリンクをスマートに混ぜることができ、さらにその動きも楽しめる。「ペグトップ」は機能と視覚的な演出を巧みに融合した製品と言えるだろう。

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大谷和利/テクノロジーライター、東京・原宿にあるセレクトショップ「AssistOn」のアドバイザーであり、自称路上写真家。デザイン、電子機器、自転車、写真に関する執筆のほか、商品企画のコンサルティングも行う。著書は『iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』『43のキーワードで読み解く ジョブズ流仕事術:意外とマネできる!ビジネス極意』(以上、アスキー新書)、『Macintosh名機図鑑』『iPhoneカメラ200%活用術』(以上、エイ出版社)、『iPhoneカメラライフ』(BNN新社)、『iBooks Author 制作ハンドブック』(共著、インプレスジャパン)など。最新刊に『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社)がある。