2012年に活躍したひとり
ヴェネチアの新星プロダクトデザイナー「ルカ・ニケット」

世界各地で年間80以上開催されるデザインの見本市やデザインフェアもそろそろ終わりの12月。そんなデザインフェアを回っていると、1年に何度も同じ顔に出会うことがある。そのひとりがイタリア・ヴェネチア生まれのデザイナー、ルカ・ニケット(Luca Nichetto)。1976年生まれと若手ながら、2012年のミラノ・サローネでは13社から19種類のプロダクトを発表。華々しい活躍が目立った。今年4月にミラノで見かけ、9月にはケルン国際家具見本市の記者発表会のためにヴェネチアで取材。そして、10月の東京デザインウィーク中に、再び取材をする機会を得た。

▲ 「屋外兼室内用の家具を」というデパドヴァからの依頼に、鉄道レールに想を得てデザインしたアウトドアテーブル「Railway」、2012年、横180cm、縦100cm。

父はヴェネチア・ムラノ島の吹きガラス職人。母がガラス絵付け職人という職人一家で育ったルカ。子供の頃から腕の立つ職人たちがガラスをつくり出す様子を日々眺めていたという。「ピンポンのように飛び交うガラス職人同士の会話を耳にしながら、アイデアが職人の手によりその場で形となって立ち現れるさまにワクワクした」と目を輝かせて話す。

そうした息の合った職人たちとあうんの呼吸で素材を吟味できる環境を大切にしたいと、自身の活動拠点にヴェネチアを選んだ。あえてデザインビジネスの中心地を避けて地方都市で活動する心境について、「ミラノのような大都市の中にいると見失ってしまいがちな現実を把握していたい」と話す。

また、「デザインをするうえでヴェネチアという地理的条件はあまり関係ありません。クライアントが何を求めているのかは最初の段階できちんと把握できればいいのですから。そこからは素材の選択。ヴェネチアは小規模ながらも多くの素材メーカーが存在し、素材のプロたちとその場で相談できる恵まれた環境です。そうして素材やアイデアを検討した先に形となって現れるプロダクトがある。活動場所が制約になるとは思っていません」と語る。

実際、自身のデザインしたプロダクトがカッシーナをはじめ、モローゾ、ボーサ、デパドヴァ、エスタブリッシュド&サンズ、グッチーニ、オフェクトといった世界の名だたる企業から発表されていることがそのことを証明している。

▲ 2011年、エスタブリッシュド&サンズから発表された照明「Dame」。照明器具としては珍しいポリウレタンフォーム製。高さ74cm、直径75cm。Photo by Peter Guenzel

▲ フォスカリーニから、同じくポリウレタンフォーム製のフロアランプ「Stewie」、2012年。アニメのキャラクターが商品名の由来というランプは生き物のようで愛着がわく存在。日本の提灯からも影響を受けたそうで、ある意味現代版の“暖炉”とも言えそう。高さ68 cm、幅77cm、奥行き27cm。Photo by Massimo Gardone

カッシーナから発表されたソファ「La Mise」(フランス語で羽織物の意)は「カッシーナを代表するヴィコ・マジストレッティの名作“Maralunga”ソファのプロポーションを踏襲しながらも、新たなソファをデザインしてほしい」という依頼に応えるかたちで生まれた。ソファの構造を女性の身体に見立て、羽織のように一枚仕立てのファブリックをすっぽり被せたLa Miseソファは、カッシーナの強みである張り地の縫製技術を見せつけてくれるデザインとなった。

▲ 「La Mise」カッシーナ、2012年。本体幅156cm、奥行き90cm、高さ82cm(座面47cm)。

▲ スティールフレームとモールドポリウレタンフォーム。

家具から照明、バスルームの水回り製品、キッチンツールとさまざまな分野のデザインをこなすルカ。次に彼のデザインに出会えるのは、来年1月のimmケルン国際家具見本市。ここでは招待デザイナーとしてルカが考える自然と共生する住まいのあり方が展示されることになっている。「自然と同じで、家は住む人が育てていくもの」とルカ。どんな住まいが立ち現れるのか楽しみだ。(文/長谷川香苗)

▲ immケルン国際家具見本市で展示する「Das Haus 2013」のドローイング。