REPORT | 展覧会
2012.11.05 16:53
関内外OPEN!のメインとなる拠点の1つ万国橋SOKO。ここでは「ゆず」の展覧会が開催されており、ファンでごった返していた。
10月26日〜28日の3日間、横浜で活動するデザイナー、建築家、アーティストの仕事場を公開するイベント「関内外OPEN!」が開催された。これは11月11日まで開催中の「OPEN YOKOHAMA 2012」のイベントの1つ。
横浜市ではアートを通したまちづくり「創造都市・横浜」の一環として、10年ほど前から空き物件にクリエイターを誘致し、地域を活性化する取り組みを行っている。09年に始まった「関内外OPEN!」は、そうしたクリエイターのスタジオが集まっていた「本町ビルシゴカイ」や「万国橋SOKO」が独自に開催していたオープンオフィスのイベント。そこへ地域のさまざまプロジェクトや周辺のクリエイターが相乗りするかたちで1つの大きなイベントとして発展してきたのである。昨年は130組だった参加事務所は今年は170組に急増。2日間ではとても回りきれない数だが、ガイド付きで主要なオフィスを巡るダイジェストツアーなども用意され、一般の参加者にもものづくりやクリエイティブの現場を体感できるようになっている。
今回はメインエリアの1つである馬車道駅周辺から、50近くのクリエイターが集まる「ハンマーヘッドスタジオ新・港区」と、関内外OPEN!の発祥地の1つである「万国橋SOKO」を紹介しよう。
「ハンマーヘッドスタジオ新・港区」の外観。
「ハンマーヘッドスタジオ新・港区」
新港ふ頭の先端に立つ「ハンマーヘッドスタジオ新・港区」は、もともと美術の国際展である横浜トリエンナーレの会場として2008年に建てられた総床面積4,400平方メートルの巨大なスタジオだ。11年のトリエンナーレが終了後、次回のトリエンナーレが開催されるまでの2年間限定でクリエイターを公募し、審査の上入居者を決定した。現在、4つのゾーンに50組を超えるアーティストやデザイナーが入居している。
スタジオの内部(Aゾーン)。みかんぐみ、柳澤潤(コンテンポラリーズ)によって、2011年のトリエンナーレの際に制作された回遊式の木製歩廊が残されている。
入居者は、美術家、建築家、プロダクトデザイナー、グラフィックデザイナーなど多岐にわたる。スタッフのいない若手の建築家が拠点事務所にしているケースもあれば、大型の作品を制作するアーティストの作業場として利用しているケースも。個別に活動しているデザイナーがここに集まって、普段の仕事ではできない実験的なプロジェクトに取り組んでいる例など、目的もさまざまだ。平方メートルあたり約1,000円(月額)という破格の賃料に加え、異業種のクリエイターが行き交うことでクリエイティブな刺激を与えあえるというメリットもある。その一方で、1つの空間を大人数でシェアするゆえに「何かと制約も多い」という入居者の声も聞こえた。
アーティストのアトリエを覗き込むツアー参加者たち。
オープンスタジオ開催時には、約1時間で主要な“仕事場”を巡るガイドツアーが実施された。ツアーの参加者が歩廊の上から各仕事場を見下ろすと、入居しているクリエイターが手短に仕事内容のプレゼンをしてくれるという趣向だ。通常、ハンマーヘッドスタジオの内部は非公開になっている。アーティストたちの製作現場を見られる貴重な機会に、参加者は次々と仕事場を巡りながら、今まさにモノや作品が生まれているライブ感を楽しんでいる様子だった。
▲3人のデザイナーから成るスタジオ340。折り紙のように折れ曲がる構造体「ORISHIKI」システムについて解説するプロダクトデザイナーの川本尚毅さん。
▲スタジオニブロール。ファッションデザイナーでもある矢内原充志さんが代表を務める。自身が昨年立ち上げたメンズブランドの新作について解説していた。
▲汎用動力研究所。牛島達治さんは人力のアシスト自転車について熱く語った。大型の作品を製作できるのがこうしたシェアスタジオの魅力でもある。
「万国橋SOKO」
商船会社が所有していた昭和43年築の物流倉庫をリノベーションし、2006年にクリエイターやアート関係の学校が入る創造拠点としてオープンしたのが「万国橋SOKO」だ。このビルの2階に2006年から入居しているのが、デザインプロダクションのNDCグラフィックスである。
周辺のクリエイターが「横浜で最も美しいオフィス」と称賛するNDCグラフィックスのオフィス。
天井が高く開放的なオフィスは、同社が初回から参加している「関内外OPEN!」においてシンボル的存在。横浜のクリエイターの間ではちょっとした“名所”にもなっている。もともとの倉庫の雰囲気を生かしながら、床面に横断歩道風のペイントを施したり、打ち合わせスペースには前のオフィスから持ち込んだ床材を張るなど、スタッフによるDIYのセンスが光る。
打ち合わせスペース
プロジェクトで制作されたポスターや製品が空間の差し色となって、賑やかで楽しげに演出された仕事場に、オープンスタジオに訪れた参加者からは「うらやましい」「こんな環境で働きたい」といった声があがっていた。
見どころは天井まで届く大きな書棚。
また同じフロアには企画会社や写真スタジオも入居しており、オープンスタジオの期間中はミュージシャンを招いてスペシャルライブを開催していた。オフィスをライブハウスに変えてしまうという遊び心あふれる企画に、参加者も入り込んで堪能していた。(文/今村玲子)