数年前にトルコを訪れた際、ボスポラス海峡に臨んで、アジアとヨーロッパの境界線を実感した。そこにはすでに自動車や歩行者のための橋が架かっているが、2013年開通の予定で、日本の大成グループ共同体によって総延長13.56km(うち海峡下の長さ1,387m)の鉄道用海底トンネルも掘り進められている。
これらが、東西の文化をつなぐルートだとすれば、トルコ政府は共和国建国100周年を記念して、北の黒海と南のマルマラ海(エーゲ海を経て地中海につながる)を結ぶ運河「カナル・インスタンブール」プロジェクトを計画中だ。
この運河プロジェクトに伴う掘削工事は大量の土砂を発生するため、それを利用して黒海側に人口30万人の人工島もつくられる予定であり、それに関して、ニューヨークベースのスタジオ・ドロールが、バックミンスター・フラー・インスティテュートなどの協力を得て提案している都市計画「ハッヴァダ・バイ・ドロール」がとても興味深いので紹介しておきたい。
ドロールらのグループは、新たな街を島の上に築くにあたって、従来の高層建築が林立する都市のあり方に疑問を持った。それは、個々のビルが二次元的に密集していても、実際には地上階や渡り廊下のある階に移動しなければ互いに人が往き来できず、コミュニケーションを取りにくいことや、ヒートアイランド現象のようなエネルギーの偏りが発生する点だ。
そこで、「ハッヴァダ・バイ・ドロール」では、直径3kmの島の中央に同1kmの円形の谷を設けて公園やレクリエーショナルエリアとし、その周囲をジオデシックドームで内部から支える高さ230m〜400mの6つの丘で取り囲む、新たな三次元の都市構造を案出した。
それらの丘の外殻には、従来、垂直に伸びていた建物が水平に円弧を描いて組み込まれており、その間の移動は斜面に沿って上下することで簡単に行える。
個々の丘は内部が中空で、頭頂部から自然光が取り込まれる緑地帯を形成する。そして、層状に居住区、教育施設、娯楽/スポーツ施設、ビジネスエリア、文化施設などが配されている。
平面的な移動はパーソナルな高速鉄道、斜面の移動はケーブルカーを使って行われることが想定され、張り巡らされた遊歩道によって徒歩で直接目的地に向かうこともできる。
パースを一見すると、SF小説の挿絵のようにも思えるが、その実、かなりリアリティのある提案と言え、今後の煮詰めや進展が楽しみなコンセプトに感じられた。