CLASKA Gallery & Shop "DO(ドー)"で開催
トラフ建築設計事務所による「トラフのコローロ展」レポート

東京・目黒にあるCLASKA Gallery & Shop “DO(ドー)”本店(クラスカ2階)にて、トラフ建築設計事務所(以下、トラフ)の個展が開催中だ。もともとトラフは、8年前に鈴野浩一と禿 真哉がホテルクラスカの客室「テンプレート イン クラスカ」の内装を手がけたことがきっかけとなって設立された設計事務所である。それから約5年間、クラスカのレジデンスフロアを拠点に活動してきた。そんな“古巣”での展覧会は、トラフがこれまでに手がけてきたプロダクトを一堂に紹介。建築家ならではのものづくりとアーティストとしてのイマジネーションが絶妙に融合した、楽しい作品を一望することができる。

▲ Photo by Reiko Imamura

今回メインで展示するのは、化粧板メーカーの伊千呂との開発プロジェクトを通じて生まれた作品だ。建築や家具などの材料として“下請け”“裏方”に回ることの多い化粧板メーカーが、自ら“発信”する側を目指して、化粧板の新たな可能性を探るパートナーとして選んだのがトラフだった。両者は1年半ほどかけて「化粧板で何をつくるか」から議論を重ねていったという。「建築やデザインのことがわからない人にも理屈抜きで楽しめるものを届けたかった」と伊千呂の伊藤祐介社長。トラフの鈴野氏も「一方的にデザインしすぎたものや単なるオブジェにしたくなかった。自由にカスタマイズできる、使いやすい道具のようなものを考えました」と話す。

▲ Photo by Akihiro Ito(冒頭の写真も)

こうして生まれたのが「コロロデスク/コロロスツール」。厚さ18mmの化粧板(基材:ラワン合板)を内向きに組み合わせた巣箱のようなコロロデスクには、側面や上部に小窓がつき、覗き込むと小さな部屋のよう。展示のように好きな写真や小物を置けば、自分だけの空間をつくることができる。「化粧板そのものの質感を生かすため、金具をつけたくない」(鈴野氏)という考えから、小窓に磁石を埋め込むことによって子供の力でも十分開閉できるように工夫。「コロロ」とはエスペラント語の「コローロ(色)」から得たもの。ポリエステル化粧板(ポリエステル樹脂を塗布した合板)ならではの美しい発色をアピールし、子供も大人も発想が広がる6色を展開する。

▲ 跳び箱をイメージしたコロロスツールは、座面を取り外すと内部に収納できる Photo by Reiko Imamura

▲ 製造過程で出る端材を使ったブックエンドをプロトタイプとして展示 Photo by Reiko Imamura

同展ではほかにも福永紙工とともに開発した「空気の器」、18金のリングにシルバーメッキを施して経年変化を楽しむ「gold wedding ring」(製造販売:ギャラリードゥポワソン)などが展示される。「無垢材に比べてネガティブにとらえられがちな化粧板やメッキも、考え方を変えれば豊かな価値を持っている。ものが多い世の中では、ものをつくることの前に、視点を変えることが大事だと思っています」と話す鈴野氏。伊藤社長はそんなトラフについて、「こちらの話を聞いて、じっくり付き合ってくれた」と振り返る。

▲ 別室では「空気の器」をはじめとする紙製プロダクトを展示 Photo by Akihiro Ito

▲ 写真家・瀧本幹也の作品を印刷した新作の「空気の器」。広げると平面の写真が立体になり、思わぬ形と色を生まれる Photo by Reiko Imamura

クライアントと丁寧に議論を重ねていくなかで、制約の中から真の問いを見出し、解を打ち出していくアプローチ。そこから生まれる建築やプロダクトには、あからさまなスタイルやパターンはないものの、間違いなく「これはトラフが関わったのだな」とわかる空気感に溢れている。(文/今村玲子)

▲ トラフの活動の原点となったホテルクラスカの「テンプレート イン クラスカ」模型 Photo by Reiko Imamura


「トラフのコローロ展」

期 間:2012年8月10日(金)〜 9月9日(日)
    11:00〜19:00

会 場:CLASKA Gallery & Shop “DO” 本店
    *入場無料



今村玲子/アート・デザインライター。出版社を経て2005年よりフリーランスとしてデザインとアートに関する執筆活動を開始。趣味はギャラリー巡り。自身のブログはこちらへ