ドイツで人気のチョコレートメーカー「リッタースポーツ」によるコンペ
『マテリアル・チョコレート』が面白い

現在発売中のAXIS158号でドイツの人気チョコレートメーカー「リッタースポーツ」のブランド哲学をレポートしました。ここでは、創立100周年を記念しての特別企画でリッター美術館とハレのブルク・ギービヒェンシュタイン芸術大学がコラボレーションしたコンペ「マテリアル・チョコレート」の結果を紹介します。本社工場に隣接する美術館で9月30日まで展示公開中。チョコレートをクリエイションのマテリアルにすると何が生まれるのか? ブルク・ギービヒェンシュタイン芸術大学の彫刻科やインダストリアルデザイン科の学生を対象に開催。普段使い慣れているマテリアルとは美味しさだけでなく成形方法も全然違い、なかなか手強かったようです。

大賞作品の「九体のドルーゼ(集晶)」(ザラ・シュシュクレブ/ジュエリーデザイン科)は展示ホールでとても嫌な臭いを放っていました。一見すると大粒ナッツが入っておいしそうな胡桃形のチョコに見えます。それが近寄ると思わず鼻をつまみたくなる臭い。ナッツだと思ったのは煙草の吸い殻だったのです。チョコレートも例外ではない嗜癖(しへき)や甘味依存症の問題を再考させられました。

インダストリアルデザインの不朽の名作ブラウンのラジオ・レコードプレーヤー「SK4」がチョコになったのが「白雪姫の棺。ディーター・ラムスとの甘い夢」。インダストリアルデザインを学ぶエラ・セラリーからディーター・ラムスへのオマージュ。ホワイトチョコの白雪姫が眠っています。プレーヤーから流れるのはモーツァルトの甘い音楽でしょうか。

「見過ごされてしまった」(フェリックス・べーア/インダストリアルデザイン学科)はチョコでなくタイヤの跡が残るどろんこ道を連想させます。菓子産業の余剰生産の現状を泥土にたとえての辛口の批判です。

ホワイトチョコとミルクチョコのチェス「山頂楽」はインダストリアルデザイン科のフィリップ・ヴィッテの作品。世界で最も高い山々の頂上をモデルにした駒。チョコが歴史的に神々の食べ物といわれた崇高性もイメージされます。チョコがあまり好きではない私でもこんなフォルムのチョコがお店に並んでいたら衝動買いしてしまいそうです。

インダストリアルデザイン科のウリ・グリューリングはアナログの3Dチョコレートプリンターをデザイン。

ヴィープケ・デーグラー(グラフィックデザイン科)の「シュニッツェル」。使い捨てのアルミ箔の皿に典型的な社員食堂のランチをチョコレートで表現。肉料理のシュニッツェル(ドイツのトンカツ)に人参・グリーンピース・白アスパラガスの野菜料理とゆでジャガイモ。

プラリネのプレゼントボックスを開けるとギョッ! 錆のようにチョコレートをコーティングした釘が現れます。ジュエリーデザイン科のダンニ・チェンの作品「人生はチョコレート箱のごとし、何が出てくるか皆目検討つかない」。チョコだと思ってかじると痛い目にあいます。

その他、カカオの生産現場での過酷な労働など、チョコレート産業への歯に衣を着せないコメントが込められた作品や、リッタースポーツのカロリーを消耗するには1,250回も「アヴェマリア」と唱えなければならず、チョコの快楽に浸った後の懺悔がいかに大変かを実感させるビデオ作品もありました。

コンペの実施は毎年は無理かもしれませんが、今回だけに終わらず、正方形をテーマにしたデザインコンペなど、是非とも継続させてほしいと思います。(文・写真/小町英恵)

この連載コラム「クリエイティブ・ドイチュラント」では、ハノーファー在住の文化ジャーナリスト&フォトグラファー、小町英恵さんに分野を限らずデザイン、建築、工芸、アートなど、さまざまな話題を提供いただきます。今までの連載記事はこちら