REPORT | 建築
2012.07.10 11:32
今年4月にリニューアルオープンした東京都美術館。すでに多くの公募展や団体展のほか、リニューアルを記念したさまざまな企画展が開催されている。
7月15日(日)からスタートする「Arts&Life:生きるための家」展は、学芸員の自主企画による建築展。本展のために昨年7月から9月にかけて「生きるための家」をテーマに建築提案を公募。プレゼンシートによる書類審査を経て、昨年12月に模型を使った応募者10組のプレゼンによる公開審査を実施した。そこで決定した最優秀賞および入選作合わせて39点の模型が今回展示されるのだ。
担当学芸員の河野佑実さんによると、「震災後、私たちがどう生きていくかを考えるなかで、生活とは切っても切れない建築、特に心の拠り所となる住まいをテーマにしました」という。また「タイトルの“Arts”については、美術館で建築展を開く意義において、より広い意味での芸術として建築を取り上げ、身近な存在として捉え直してほしいという当館のメッセージでもあります。8月からは前川國男設計の当館で館内ツアーを実施するなど、建築やデザインの企画にも力を入れていく予定です」。
▲ 設営中の最優秀賞受賞作「家族の生きるための家——大柱と屋根のつくる、住むための濃度」の構造部分(7月9日撮影。以下同)
159案から選ばれた最優秀賞は、東京藝術大学大学院生の山田紗子(やまだ すずこ)さんによる「家族の生きるための家ーー大柱と屋根のつくる、住むための濃度」。家を支える大黒柱が10数本も刺さるように敷地に立ち、そこに傾斜のある床あるいは屋根が貫通しているというものだ。
▲ 最優秀賞を受賞した山田紗子さん
この作品は、原寸大模型として天井高10メートルの展示室で公開されることになっており、7月9日に行われた内覧会では急ピッチで施工が進んでいる最中だった。「もともと木造をイメージして設計した」(山田さん)とのことだが、会場の条件により構造は鉄骨づくり。構造だけを見ると、家というよりダイナミックな彫刻作品のようだ。審査員長を務めた建築家の小嶋一浩さんも「山田さんの作品はおよそ家には見えない。しかしほかの作品にはない明るさと強さ、そして動きがある」と評価する。
▲ 木造をイメージして設計したが、展覧会では鉄骨構造となった
作品について山田さんは次のように説明する。「震災が起きてから自分のなかであらゆる価値観が変わったことは確かです。しかし家族が集まる家の理想像というのは震災前後も変わらないのでは。むしろ震災によって気づかされたというところがある。通常、木造建築における大黒柱は1本だが、提案ではたくさん設けました。それによって家の中心がいくつもでき、いろいろな境界が生まれることを狙っています。住む人が互いの気配を感じながらも、オープンすぎない空間をつくりたかった」。また、展覧会開幕に向けて、このようにも語った。「昨日ようやく上棟を迎えてホッとしています。まだ家具などの木工が入っていないので住宅としての雰囲気がどうなるかわからないのですが、ギリギリまでディテールをチェックし、住みやすい住居空間に仕上げたい」。
▲ 山田紗子「家族の生きるための家——大柱と屋根のつくる、住むための濃度」部分 2011年
今回、応募資格は年齢・国籍不問だが、2011年4月時点で教育機関に在籍しているか、卒業(修了)後5年以内であることが条件だった。最優秀賞の山田さんも現役の大学院生で27歳。次世代の建築を担う若手を開拓する賞として、本展が好評であれば今後も続けていく可能性があるという。今回展示される全39作品に期待したい。(文・写真/今村玲子)
会 期:2012年7月15日(日)〜9月30日(日)
会 場:東京都美術館 ギャラリーA・B
開室時間:9:30〜17:30、火曜日10:00〜17:00(入室は17:00まで)、
金曜日9:30〜20:00(9月21日、9月28日は除く)(入室は閉室の30分前まで)
休室日:毎週月曜日、7月17日(火)、9月18日(火)
(7月16日(月)、9月17日(月)は開室)
「オープニング・レクチャー」
日 時:7月15日(日)15:00〜17:00
出 演:小嶋一浩、西沢立衛、平田晃久、藤本壮介、山田紗子(最優秀賞者)
会 場:東京都美術館 講堂
定 員:200名(全席自由/要事前申込)
参加費:無料
今村玲子/アート・デザインライター。出版社を経て2005年よりフリーランスとしてデザインとアートに関する執筆活動を開始。趣味はギャラリー巡り。自身のブログはこちらへ