REPORT | AXISフォーラム
2012.06.18 15:13
5月に新刊『トラフの小さな都市計画 』(平凡社)が発売されたトラフ建築設計事務所の鈴野浩一さんと禿 真哉さんのおふたりによる「第40回 AXISフォーラム:建築的思考から生み出す、モノ、空間、風景」レポート後編です。前編からかなりの間が開いてしまいました。申し訳ありません! 「テンプレート イン クラスカ」「NIKE 1LOVE」「空気の器」を解説した前回のレポートと併せてお読みください。
「光の織機」(2011年) Photo by Daisuke Ohki
禿 「僕たちが昨年、イタリアのデザインフェア『ミラノ・サローネ』で担当したキヤノンのインスタレーション『NEOREAL WONDER』のお話をします。このプロジェクトでは、空間全体の設計に関わらせてもらいました」。
鈴野 「キヤノン製プロジェクターの性能を引き出したインスタレーションであること、すごく広い場所で行うこと、という条件だけは最初に決まっていました。クライアントに『空気の器』を見てもらうところから始めたら、『空気のようなスクリーンにできないか』と話が膨らみました。なるべくスカスカな構造にして人が入り込めないかとか、人が動いていくと見る角度によって変わっていくようなものができたら面白いなとか、そのためにどうすればいいかな、と完成形を探っていきました」。
禿 「そのスクリーンが特別な形を持ってしまうと、見せたい光の演出が薄れてしまいます。そこで、見えない光を可視化するようなイメージで、プロジェクターが発する光の通り道をスクリーンにできたらいいのでは、と思ったんです。古い映画館で空中の塵に光が当たると、筋が見えたりしますよね。その中に入っていけると面白いんじゃないか。そこで、糸を使ったスクリーンのアイデアに至りました」。
鈴野 「僕らは常に模型をつくってシミュレーションします。このときも小さなプロジェクターと細い糸を張った模型で実験しました。1本1本の糸がプロジェクターの光を拾えるか不安でしたが、1分の1モデルをつくってビックリしました。プロジェクターからの映像が、自分の中を通過していくような感覚でハッキリ見えるんです。スクリーンの方を見ると映像が降ってくるように錯覚します。来場者は投影面ではなく、糸を伝って1本1本の光が発射されているのを見ようと、通常とは逆にプロジェクター側を向くんです。映像は、ビジュアルクリエイターのWOWが『光の循環』をテーマにつくりました。実際には3つのプロジェクターでなめるように糸に向かって投射しました。かなりテンションをかけなければいけないので、裏で強い力で引っ張っています。僕らはこの作品を『光の織機』と名付けました。紡績工場で糸が紡がれているシーンに着想を得た、空間に光を織り込んでいくイメージです」。
「キャッチボウル」(2011年) Photo by kenpo
禿 「こちらは、丹青社が毎年行っている新人研修プログラム『SHELF』プロジェクトで社員の方と一緒につくった作品で、室内の角があって初めて成立する家具なんです。半球を4分の1と4分の3に切り分けると、一方はちょうど入り隅に、もう一方は出隅にフィットする仕掛けです」。
鈴野 「部屋の中には必ずコーナーがあるので、その場所をキャッチする家具ですね。この家具は取り付く相手がいないと機能しません。角があるスペースに引っ掛けると初めて収納になり、そこにモノが入れられるのです。僕たちが家具やプロダクトを設計するとき、どこから手を付けるか。建築の場合は敷地から条件を読み取るように、プロダクトにおいても場所を取っ掛かりに発想できるのではないか、といつも考えています」。
「NANYODO SHELF」(2011年) Photo by Fuminari Yoshitsugu
禿 「建築専門書店、南洋堂(東京・神保町)の外壁につくった棚も同じですね。これは壁の溝のところに棚板を差し込むだけで、本が置けるようになるものです。この棚が付くだけでいつもの通り道が急に図書館に見えてくるから不思議です」。
鈴野 「宙に本が浮いているように見えるので、お店の前で立ち止まる人が増えてきたそうです。開店と閉店のときに毎日出し入れするものだから、雨の日には使いません。また、水糸を張って、風で本のページがめくれないように工夫もしています」。
「大岡山の住宅」(2010年) Photo by DaiciAno
鈴野 「ようやく建築の話に辿り着きました。この木造住宅は、まるで家具をスタックした積み木のような建築です。建物が竣工してから家具を入れるのではなく、建築と家具を同時につくったらどうかという提案でした。例えば、寝室の上に大きなテーブルのような子供部屋が被さっていたり、床だと思っていたところがテーブルとして使われたりなど、自分がどこにいるかによって関係性が変わる住宅です。構造壁は収納としても利用しています」。
禿 「都市部の街並みを見ても、最近は敷地が細分化されるようなケースが増えています。この住宅では斜線規制によって決定されるボリュームの中で、間口の狭さを極力感じさせないよう設計しています」。
「Run Pit by au Smart Sports」(2010年) Photo by DaiciAno
禿 「この施設は皇居のお堀の周りのランニングコースに隣接し、ロッカーやシャワーを備えています。会社帰りの人がここで着替えて、街に出て走ってから、また着替えて帰る中継点になります」。
鈴野 「街の中にこうした起点となる施設をつくるだけで、街への意識を一気に変えられるという提案です」。
「ガリバーテーブル」(2011年) Photo by Fuminari Yoshitsugu
禿 「東京ミッドタウンの芝生広場で、DESIGN TOUCHというイベント期間に長いテーブルを設置しました。現地へ行く前はそれほど意識していなかったんですが、実際は50mの敷地の中で、およそ1.5m の勾配があるなだらかな斜面になっています。テーブルを1つ置いたことで斜面になっている環境を気づかせる仕掛けにもなりました」。
鈴野 「斜面の上の方から長いテーブルを見ると、遠近感がくるって見えてくるなど、テーブルの表情はさまざまに変わります。地面との関係で、人の関わり方が変わってくる不思議な家具です」。
禿 「端っこではベンチになっているのに、もう一方の端では足がブラブラしていたり、子供が屋根の下へ潜るように遊んだりしていました。いろんな人が集まってきて、いろんな行動を誘発していたのが発見でした」。
鈴野 「傾斜して見えるけれど、テーブルの天板は水平に保たれています。1本1本の足の長さが違うので、レーザーで高さを測定しながら木材を切りました。大きくなっても、なるべく普段のテーブルと同じようなものを少ない材料でシンプルにつくれないかと、構造家の大野さん(オーノJAPAN)のところでモックアップをつくって検証しています。2週間ほどの展示の後、『石巻工房』(宮城・石巻)にこの木材を寄贈して、工房の壁の材料などとして再利用してもらいました」、
『トラフの小さな都市計画 』(2012年) Illustrations by yosuke yamaguchi
鈴野 「最後に、僕たちの新しい本を紹介します。『トラフの小さな都市計画』(http://www.amazon.co.jp/トラフの小さな都市計画-くうねるところにすむところ―家を伝える本シリーズ-鈴野-浩一/dp/4582835678)というタイトルで、作中のさまざまな仕掛けを通じて大きな都市との関わり方を提案するような内容になりました。都市というと、とても大きな環境という感覚ですが、モノなど微細なところから発想していく都市計画もあるんじゃないか。自分を基準につくり出せるものもあるのではないか、というメッセージになっています」。
禿 「今回のトークショーのテーマである『モノ、空間、風景』と重なる部分も多いです。絵本の中では、モノから発想する場所のつくり方だとか、見方を与えるだけでも風景が変わって見えるのではないか、といったことを考えました。自分たちのつくる場所というのは、置かれるモノを前提に考え、時にはモノの目線になって考えたりもします。そういった小さなモノと、街などの大きなものではスケールの触れ幅は大きいのですが、その両方の視点に立つことで見える風景もあるんじゃないか。そう思って仕事に取り組んでいます」。
(終わり)