vol.22 シンプリズム
「次元」

先日、知り合いのデザイナーが、ある画期的な製品の製造に関する打ち合わせで中国に行ったとき、先方の交渉担当者やエンジニアの前向きな反応に驚いたという。彼が、それまで日本で委託先を探していたときには、相手から懸念やリスクなどのネガティブな意見ばかりを聞かされ、話が進まなかった。そのため、日中の企業の対照的な態度を目の当たりにして、国内の製造業の将来を案じずにはいられなかったそうだ。

しかし、一方では日本だけにしかない技術を応用し、日本だからこそ実現できるデザインで勝負しようとするプロダクトも存在する。その1つ、トリニティの「シンプリズム」ブランドからリリースされたiPhone 4/4S用カバー「次元」シリーズ(オープン価格)は、本体やパッケージのデザインはもちろん、製造やパッケージングの作業に至るまで「純日本製」を貫いた製品だ。

このシリーズの特徴は、ケイズデザインラボが確立した「D3テクスチャー」技術を用いた質感再現にある。デザイアドラインが手がけたデザインは、「革(レザー)」と「藤(ラタン)」では、天然素材であるラムスキンの毛穴や手編み籠の繊維感を忠実に再現。また「峰(リッジ)」では、亀甲模様をベースに立体パターンの高低差を限界まで追求し、それを樫山金型工業の精緻かつ巧妙な金型の組み合わせによって実際の製品に落とし込んでいる。そのため、見た目は垂直でも数千分の1ミリ単位で斜めにカットされたディテールなど、デザインから製造に至る工程のすべてが、他社によるコピー行為を非現実的なものとする方向に働くのだ。

「次元」シリーズ自体はiPhoneケースという限定的なジャンルではあるが、ほかの分野に対しても、これからの日本のプロダクト開発が進むべき道を示す好例と言えるだろう。




大谷和利/テクノロジーライター、東京・原宿にあるセレクトショップ「AssistOn」のアドバイザーであり、自称路上写真家。デザイン、電子機器、自転車、写真に関する執筆のほか、商品企画のコンサルティングも行う。近著は『iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』『43のキーワードで読み解く ジョブズ流仕事術:意外とマネできる!ビジネス極意』(以上、アスキー新書)、『Macintosh名機図鑑』『iPhoneカメラ200%活用術』(以上、エイ出版社)、『iPhoneカメラライフ』(BNN新社)など。