21_21 DESIGN SIGHT
「テマヒマ展〈東北の食と住〉」レポート

昨年、21_21 DESIGN SIGHTでは東北地方の衣や衣服に関するものづくりを紹介する特別企画展「東北の底力、心と光。『衣』、三宅一生。」を開催した。本展はその続編に当たる位置づけで、東北の風土や生活に根ざした「食」と「住」を紹介する内容だ。

本展は佐藤 卓と深澤直人が展覧会ディレクターを務め、「食」のリサーチをフードディレクターの奥村文絵、「住」のリサーチをジャーナリストの川上典李子、また映像制作にトム・ヴィンセントと山中 有、写真に西部裕介というメンバーが加わり実施している。

▲ 会場風景。ガラスと木でできた什器に、整然と品々が並ぶ

企画に際しては、「東北のテマヒマというものを、すでにさまざまなところで行われている物産展のようなかたちではなく、21_21の視点でどう展示するか。来場者にどう体験してもらうか」ということが話し合われたという。各メンバーは東北6県の工場(こうば)や工房に赴き、職人たちの話を聞いた。深澤が「デザインという言葉に対する既存のイメージが払拭される機会となった」と語ったように、厳しい自然のなかで生き残る知恵としての生産のあり方に、企画側の熱い視線が注がれている。

佐藤によれば、現地取材をするなかで自ずと「繰り返し」という言葉がキーワードになっていったという。トム・ヴィンセントと山中 有による映像を見れば、工場でのものづくりが職人による繰り返しと積み重ねの作業によって成り立っていることが伝わってくる。何十年もかけて同じことを繰り返すなかで、技術は身体に刻み込まれていく。その作業が行われるのは、例えば、孫の誕生日を記したメモが壁に貼ってあるような工房。暮らしとものづくりの場が一続きに連なり、切り離して考えることができないことを物語っているかのようだ。

▲ 会場のトム・ヴィンセントと山中 有の映像より。川上が「幸いにも最も雪の深い季節に行くことができた」と話したように、東北のものづくりは長く厳しい冬をいかにして乗り切るかが前提となる

▲ 奥会津編み組細工/マタタビ細工は、冬期に囲炉裏を囲んでつくられる ©Tom Vincent / Yamanaka Yu

▲ 60年以上マタタビ細工を続ける五十嵐文吾さんの手

佐藤は、戦後の高度経済成長や利便性を追求した生活によって失われていった人間の「身体性」に言及しながら、「東北の食や住のなかに、われわれ日本人が見失ってしまったものがあるのではないか」と指摘する。

ともすれば「手業」「伝統技術」といった言葉そのものを手放しで有り難がるような現代の風潮がある。しかし、そのことによって古くから伝わるものづくりを現代の暮らしから遠い存在として突き放してはいないか、という反省も佐藤の言葉に潜んでいるようだ。

会場に整然と展示されているのは、販売目的ではなく、もともとは自分たちの生活のためにつくられた道具や食材ばかりだ。例えば、熱い鉄を打ってつくられる青森県弘前市の「りんご剪定鋏」は、冬期にりんごの木を剪定するための道具。利用者の手の形に合わせて1つずつ調整されているという。ずらりと並んだ宮城県登米市の「油麩」や宮城県岩出山地区に伝わる「凍り豆腐」は、冬期の重要なタンパク源となる保存食だ。

▲「りんご剪定鋏」など

▲「麩」の数々。宮城県登米市の油麩、山形県東根市の車麩、宮城県大崎市の焼麩がずらりと並ぶ

なかには、いったんは忘れられ、製造されなくなった製品を地元の人が数年をかけて復活させた例も少なくない。青森県黒石市の靴店を営む工藤 勤さんは、10年がかりで雪上作業用の天然生ゴム製「ボッコ靴」を復活させた。現在は、予約して1年ほど待たなければ手に入らないほど人気の長靴だ。

▲「ボッコ靴」。天然生ゴムを使用しているため、雪のうえでも足が冷たくなりにくい優れもの

会場に並ぶ55種類の品々は大量生産品として洗練されたデザインかというと、必ずしもそうではない。手作業のため、ひとつひとつ大きさが微妙に異なっていたり、いびつな形をしているものもある。しかし、そこには理にかなった美しさと、時間と手間に磨かれた強さが潜んでいる。そういった点に心打たれた佐藤は言う。「これらは近代のデザインという感じがしないかもしれない。しかし、これこそ本当のデザインと呼べるものではないのか」。

▲ 岩手県九戸郡の伝統食、ジャガイモを凍らせながら乾燥させた「凍みイモ」。地元の人がその味を忘れられず、復活させたもの

▲ 展示品に西部裕介の写真が加わることで、現地の暮らしが感じられる

震災以降の1年で、われわれがひたすら知ったのは東北地方の人々が持つ粘り強さにほかならない。いったいなぜ東北は強く、揺るぎない思いを持ち続けられるのか。今回もまた、ものづくりを通してその答えの一端を教わる機会となるのではないだろうか。(文・写真/今村玲子)


*トップ画像は、映像より「りんご剪定鋏」©Tom Vincent / Yamanaka Yu


「テマヒマ展〈東北の食と住〉」

会  期:2012年4月27日(金)〜 8月26日(日)

会  場:21_21 DESIGN SIGHT

開催時間:11:00〜20:00(入場は19:30まで)

休 館 日:火曜日

入 館 料:一般1,000円 大学生800円 中高生500円



今村玲子/アート・デザインライター。出版社を経て2005年よりフリーランスとしてデザインとアートに関する執筆活動を開始。趣味はギャラリー巡り。自身のブログはこちらへ