vol.19 万能レンチ
「ラチェッティング・レディ・レンチ」

ボルトやナットを締める際に用いられるレンチは、本来、対象となるヘッドにピッタリ合う口径のものを利用すべきだが、すべてのサイズを揃えるには費用がかさみ、また整理するのも厄介になるというデメリットがある。

これに対し、1本でさまざまなサイズに対応できるようにモンキーレンチという工具が考案されたものの、先端部分が交換可能なソケットレンチや丸く閉じた形のめがねレンチに比べると機構上ガタが発生しやすく、ボルトヘッドやナットに接する面が2カ所しかないために力が集中して対象物を痛める可能性が高かった。

ブラック&デッカーの「ラチェッティング・レディ・レンチ」(30ドル、日本未発売)は、めがねレンチの輪のなかにソケットレンチのソケット部分を複数内包したような構造を持ち、その複数のソケットを回転させることで、16種類(インチサイズ8種+メトリックサイズ8種)のサイズに対応できる。もともとラチェット機能のない「レディ・レンチ」として開発・販売されていたが、この「ラチェッティング・レディ・レンチ」は名前の通りにラチェット機構も実現し、柄の部分を往復させるだけで締め付けが可能だ。

デザインは、ブラック&デッカーの子会社であるデウォルトのデザイン部門が担当し、しかも、ほとんどの作業を同部門のインターン生であるジョナサン・サレーノが行ったという。スケッチは、デウォルトのシニア・プロジェクト・インダストリアルデザイナーであるトム・マレーによるものだが、コアとなるアイデアを維持しながら、グリップ形状を中心にフォルムがリファインされていった様子が伺えて興味深い。




大谷和利/テクノロジーライター、東京・原宿にあるセレクトショップ「AssistOn」のアドバイザーであり、自称路上写真家。デザイン、電子機器、自転車、写真に関する執筆のほか、商品企画のコンサルティングも行う。近著は『iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』『43のキーワードで読み解く ジョブズ流仕事術:意外とマネできる!ビジネス極意』(以上、アスキー新書)、『Macintosh名機図鑑』『iPhoneカメラ200%活用術』(以上、エイ出版社)、『iPhoneカメラライフ』(BNN新社)など。