震災から1年が経とうとしています。震災によってナカダイに運び込まれる廃棄物にも変化が見られ、出荷するマテリアルにも影響がありました。現在もそれは続いています。今回と次回の2回にわたり、廃棄物業者から見た、というより、中台澄之から見た震災について書きたいと思います。
まず、廃棄物とは何か?ということとリサイクルの現状です。廃棄物を処理するには、廃棄物処理法に則らなければなりません。廃棄物とは企業や個人が不要と判断したモノ。そして、企業から出た廃棄物は産業廃棄物、個人から出た廃棄物は一般廃棄物となります(厳密には違うのですが、ここでは説明のために大雑把に分けます)。
産業廃棄物を運搬するには産業廃棄物収集運搬許可、処理するには産業廃棄物中間処理の許可、一般廃棄物もそれぞれ一般廃棄物収集運搬許可、一般廃棄物処分業許可が必要で、この免許を持たずに運んだり、処分したりすると罰せられます。
産業廃棄物は排出者責任、つまり捨てた企業が最終的な責任を負います。これは不法投棄を防ぐのが大きな目的。例えば、山の中に廃棄物が捨てられていた際、「いや、ちゃんと廃棄業者に渡したから関係ない」と言わせないためです。確かにきちんと廃棄業者に渡したのに、その業者が不法投棄をする場合が多い。しかし、そんなことをする人間は逃げてどこにいるかわからないパターンが多いため、どっちの責任と言ってもなかなか解決しない。だから、逃げない排出側の企業に責任を取らせるといったほうが適切なのかもしれません。じゃあ、そこまで信用されていない私たちの業界は何だ?という疑問は残りますが、それが現状です。
一般廃棄物、つまり個人のゴミは、市区町村が責任を持って処理します。決められた日に、決められた分別をしてゴミを出したら、必ず持っていきます。市区町村は引き取らないことは許されません。
廃棄物の場合、困るのはモノが流れないことです。モノが流れない……。これがキーワードです。これほど恐ろしいことはありません。皆さんも、生活していて、明日から無期限でゴミは引き取りませんと言われたと想像してみてください。あり得ないですよね。廃棄物の世界に受け入れ拒否は禁じ手です。
廃棄物を有価物としてとらえる流れがあります。つまりリサイクル。大変良いことですが問題もあります。ペットボトルを例に挙げましょう。ペットボトルを廃棄物として受け入れる会社は、必ず受け入れます。ペットボトルの受け入れ拒否など聞いたことありません。しかし、価格が合わなければ受け入れません。これは、私たちの業界にとっては、ひじょうに難しく、矛盾を抱えた構造的な問題です。
また、有価物になった(有価物としてとらえられた・認知された)時点で、それを仕入れるのは廃棄物業者ではなく、別の業者になるため、そこでの価格が折り合わなかったり、相場が下がったりした場合、引き取りを拒否されるのです。拒否されて最も困るのは、ペットボトルを回収した市区町村や排出する企業。拒否されたらゴミの山ができてしまいます。で、やはり、廃棄物業者に出すことになる。
つまり、好景気や円安のときは廃棄物業者からリサイクル業者や海外の商社などにマテリアルが流れ、不景気になると廃棄物業者に舞い戻ってくると言う例がたくさんあります。そして、この不安定さがリサイクルを難しくしている現状もあります。
前置きが長くなりました。つまり、廃棄物は誰が捨てたのかが明確であることが前提で、誰の責任でお金が支払われるかわかれば引き取る。言い換えれば、モノが流れる。そして、当たり前に引き取られて、どこかの会社に受け入れられて、当たり前にリサイクル、あるいは処理されるというのが私たちの生活の根底にあります。
今回の震災は、この前提が崩れていることがそもそもの問題なのです。がれきを例に取ると、誰の責任かの前に、そもそも誰のがれきか? 個人のか? 企業のか? 個人ののものなら市の責任なので、市の一般廃棄物の運搬の許可を持っている会社が運ぶ、企業のものなら県や市の産業廃棄物の運搬の許可を持った業者が運ぶ。これが法律です。
日本の廃棄物処理法は、不正をさせず、衛生についてもきっちり指導しているため、平時は本当に効果的です。いい加減なことをやる業者は排除され、ルールに則らなければ何もできません。しかし、今回のような非常時は難しい。昨年6月に被災地を訪れて、私が初めに思ったのはそれです。
物量として処理できるか? 分別できるか?の前に、廃棄物処理法がある限り、特例法をつくらなければ、がれきそのものが動かせません。誰のものか? そもそも廃棄物なのか? 不要なのか?
逆に、とにかく処理をしたい、きれいにしたいという一心で、許可を得ずして処理を推し進めたら? 皆さんの家の近くの空き地に、ある日突然、トラックが出入りし始め、がれきの山ができて、そのまま放置されるかもしれないと思えば、そんなことさせるな!!と思うでしょう。つまり、被災地からがれきが動かないということです。
許可を持っている適正な業者が、その処理能力に合わせて廃棄物を移動、処理するしかないのですが、現在の被災地を数年で元通りにするのは至難の業です。前提が崩れた社会、これは、製造業だけに限った話ではありません。
続きは、次回に……。(文/中台澄之)
この連載は株式会社ナカダイ前橋支店支店長・中台澄之さんに産業廃棄物に関するさまざまな話題を提供していただきます。