新刊案内
長艸敏明 著『長艸敏明の刺繡』


『長艸敏明の刺繡』
長艸敏明 著(世界文化社 3,990円)

本誌116号(2005年8月発売)「匠のかたち・刺繡」にご登場いただいた長艸(ながくさ)敏明さんの初の作品集が刊行されました。

西陣生まれの長艸さんは、京繡(きょうぬい)の伝統工芸士。能装束を中心に、着物、室内装飾品の刺繡を手がける一方、祇園祭の山鉾、飛騨高山祭の屋台、長崎おくんちの傘鉾における懸装品を制作、修復するなど、その創作活動は多岐にわたります。

本書では、110点余りの作品を収録。本来、自らの手元に作品が残らない仕事だけに、さまざまな逸品ばかりをまとめた本書は、それだけで見応え十分です。独創性豊かな、輝くような色彩は、「長艸カラー」と呼ばれ、パリをはじめとした海外の展覧会でも多くの注目を集めたと聞きます。

また、図案に寄った写真がふんだんに掲載され、糸の膨らみや流れといったディテールも手に取るように感じられます。そこに添えられる文章は「撚りをかけない、絹の輝きが生きる平糸(ひらいと)を使うことにより華やかさを増した」というように、刺繡という技法の多様性や奥深さを伝えます。

そして、なにより目を奪われるのは、独創的な図案や構図、静けさや時間の経過といった目に見えないものをいかに表現するかという点。それは、本来、決まり事の多い能衣装に対しても、「つくり手から提案する衣装」を掲げる長艸さんならではのものと言えるのではないでしょうか。A5判、256ページ。

以下、目次より。

第一章 舞う
    能衣装・鬘帯

第二章 飾る
    掛軸・仕覆・額 ほか

第三章 装う
    きもの・帯 ほか

特別編 長艸刺繡教室の京繡入門