軽さを実現することを乗り越えて
鈴野浩一「Catch-bowl」

「キャッチボールからキャッチボウルへ」

400Φの半球の器が1/4と3/4に分かれ、それぞれを出隅・入隅(でずみ・いりずみ)に取り付ける。まるで玉入れのように物を入れる、楽しくて軽快なシェルフを目指しました。自立せず出隅・入隅があって、はじめて小さなシェルフとして成り立つのです。

最初は簡単につくれると思い込んでいましたが、触れたときや使い勝手の軽快さ、木の風合い。そこに三次元曲面という技術上での課題が噴出。木材ブロックのくり貫きでは厚み20mm重さ5kgで軽快さが再現できず、コーリアンでは半球内Rに突板を貼れず木の風合いが再現できないなど、何度も壁にあたりました。

さらに、知識や経験のない私たちはチーム内での情報・意志共有さえままならず、デザイナーと協力会社間で右往左往し、おのれの無力さを知りました。しかし、わかるかわからないに関わらず、責任を持って何をすべきなのかを考え、行動することで何か結果につなげたいという想いが日々強くなりました。

最終的に、曲げ合板に突板という至難の業で、厚さ6.5mm、重さ2kgを実現できたのも、協力会社の皆さんの支えがあったからです。

関わる人との会話から始まり、一緒に実現できる方法を掘り下げる力と姿勢を持つことで、信頼に繋がっていくのだと実感し、さらに信頼を得たいという強い思いが芽生えたことは、成長できたといえる点です。関わる人たちとの会話のキャッチボールがものづくりの原点になるということを、このSHELFは教えてくれました。(文/井上隆志、CS事業部 コミュニケーションデザイン統括部 デザイナー)

「Catch-bowl」
デザイン:鈴野浩一(トラフ建築設計事務所)
協力会社:(株)エイペクス ほか
撮影:kenpo

展示や内装の設計・施工を手がける丹青社が、2009 年から新入社員教育の一環として行っている「SHELF制作研修」。本連載では、研修に参加された丹青社の方々に、それぞれの作品について語っていただきます。また、この研修成果については、20119月27日(火)〜10月5日(水)までアクシスギャラリーで開催された「人づくりプロジェクト SHELF展」において、展示報告されました。