2011年、表現方法が見つからないほどの悲しい記憶の年になりました。3月11日、その日は国内のあかりにも大きく影響を与える日となりました。
そして2011年12月、神戸では17回目のルミナリエが開催されました。消えることのない1月17日への記憶を蘇らせるイベントでもあります。今回は、神戸から東日本大震災の犠牲者への鎮魂の祈りと復興支援のエールを送ることを目的に、新たに噴水を囲む作品が追加設置されたのです。その「鎮魂のあかり」が噴水池の水面に映し出された情景に歓声が沸くのに違和感を覚えたのは私ひとりではなかったはずです……。「祈りの泉」と題された作品はLEDによって灯されていました。
赤、青、緑……、確かに色鮮やかな輝きを放ってはいるのですが、そこには奥深さがなく、失望感に似た複雑な思いに包まれたのです。これまでは、作品の中に一歩踏み入れた瞬間、雑踏の中であるにもかかわわらず、一瞬周りの存在が消え、次の瞬間、心に灯がともるような言葉では表せない暖かな感覚を覚えたのですが、その感覚が……。しかし、これは確実にあかりの未来を示す1つのかたちであり、スタンダードになるのです。その未来を複雑な思いで自分に理解させつつ、このあかりが東日本の被災地へ届くことを強く願うしかありませんでした。
そして、オールLEDとされた作品の支柱付近に一部僅かな白熱球が配置されていることに気付き、そのあかりが実にこの作品を活かしているように感じました。同時にそのあかりの存在にいろいろと無理やりな想いを込め、僅かに安堵したのでした。(文/マックスレイ 商品研究所 所長 永井一夫)
この連載コラム「tomosu」では、照明メーカー、マックスレイのデザイン・企画部門の皆さんに、光や灯りを通して、さまざまな話題を提供いただきます。