REPORT | プロダクト
2012.01.26 20:06
2011年7月。根津氏は電気バイク「zecOO(ゼクウ)」のデザインをもってオートスタッフ末広を訪れた。「11月はじめの東京デザイナーズウィークで新しいバイクを展示したい」と中村氏に伝えた。「その年の東京デザイナーズウィークはエコがテーマ。今はバイクに興味がない人にも1つの取り組みとして見てほしかった」と根津氏。ただし実質約2カ月というあまりにも短い期間でゼクウを完成させなければならない。中村氏は驚いたものの、「やる」と答えた。「とにかくデザインがカッコよかった。そして魂がある。しょうがないというよりは、自分も早く乗ってみたい、つくるのが楽しみだという気持ちのほうが強かったんです」(中村氏)。
しかし実際に2カ月でつくるとなると、苦労と緊張の連続だった。例えばアルミの削り出しにこだわったフレームは通常のバイクより寸法が大きいため、つきあいのある加工業者では対応できない。コンピュータによるNC加工が可能な業者をイチから探さなければならなかった。また「素材感を残すため塗装ではなくアルマイトにしたい」というデザイナーの理想に応えるため、対応できる設備を持つ業者を探す必要もあった。大規模な業者は分刻みで次々と処理していく。そのため指定された日時に中村氏がパーツを運び入れて割り込みで処理してもらうなど、加工の手配に時間と手間がかかった。
▲製作過程。削り出したアルミフレームには黒色のアルマイト処理が施されている
▲フレームの上に、FRPで型取りして貼ったカーボンのカウルがかぶせられた。カーボンを美しく貼るのは高い技術が求められる
▲FRP部品製作のエキスパート、米川徹氏がカウル部分の型を製作しているところ
▲腕利きの職人が苦労して貼ったカーボンの上から白で塗装してしまうという“こだわり”
▲操作部分にもカーボン素材を使用
ゼクウのフロント部分は、コの字型のスイングアームが横からタイヤを支える構造となっている。これも根津氏のこだわりの1つだった。一見、鋳物に見えるが、治具を作ってアルミ板を表側と裏側から溶接し、補強板を加えて断面が漢字の日の字に見える凝った作りとなっている。「パイプなら簡単にできますが、それはイヤでした(笑)」と根津氏。「中村さんのところなら絶対にできるという自信があったし、実際に想像以上のものになった。製作の過程で職人さんの経験値やイマジネーションが加わることでどんどんよいものになっていくことがあります。その典型例がこのスイングアームかもしれません」(根津氏)。
▲スイングアーム部分の溶接を行う職人
▲製作過程のスイングアーム
▲フロントに取り付けられたスイングアーム(完成形)
こうした細部のこだわりが随所にある一方、製作にかけられる時間は極端に短い。そんな厳しい状況でのスピーディな共同作業を支えたのが、先述の3Dソフト「Autodesk Alias(エイリアス)」だった。同ソフトで制作されたCGがデザイナーと製作スタッフ間の確実な情報伝達やイメージの共有に貢献したという。
「例えばクリアランスの問題や部品の寸法など、デザインの段階では成立していたとしても実際に製作していくと違ってくることがあります。そうした場合には、一度僕が図面を3DのAutodesk Aliasに戻して検証します」と根津氏。中村氏の手元にあるのは平面の図面のみ。同氏は必要に応じて根津氏に電話し、「3Dで斜めから見てほしい」「XとYの数値を教えてほしい」などと問い合わせたという。中村氏は「今回は時間がないから失敗が許されなかった。もし違う場所に穴をあけてしまったら修正できない。根津さんに3Dでの状態を確認し、問題を検証してもらうことで安心して作業ができました」と振り返る。
一方で「デジタルだからといって100%ではない」とも。「ベースにアナログなコミュニケーションがあって、さらにデジタルのデータがあれば強いということです。実際、Autodesk Aliasがなかったら展示に間に合わなかった。メンバーが顔を合わせる時間がない中で『今すぐ何ミリをどうする』といった話ができたのは、Autodesk Aliasでやっていてよかったと思うことです。それまで3Dソフトは大きな会社で使うツールだと思っていましたが、むしろ我々のような個人規模でものづくりをしているところでこそ目に見える威力を発揮するのかもしれません」(中村氏)。
▲作業は夜を徹して行われた
▲完成したゼクウ
結果的に東京デザイナーズウィークでの展示は前日に間に合い、会場で注目を集めたのは冒頭で紹介した通りだ。根津氏はデザイン関係の来場者から「うらやましがられた」という。「いいパートナーに恵まれていると多くの人に言われました。個人デザイナーのメリットは、今一緒にやりたいと思った人といい影響を与えあいながら仕事できること。そんな自由なものづくりに好感をもってもらえたのかもしれません」(根津氏)。
「こんなバイクに乗りたい」という想いをCGでカタチにし、イメージを共有した製作者に「やる気が出た」と言ってもらったことがすべてのはじまり。根津氏は今後もアナログのやりとりとデジタルツールを駆使しながら、こうした個人の力を発揮したものづくりを続けていきたいという。(文/今村玲子)
▲東京デザイナーズウィークの会場で撮影されたゼクウ。「1月にメンバーで試乗走行した後、ウィンカーやライセンスプレートを取り付けるなど法規対策の上、公道での走行を目指す。春には一般向けの試乗会をやりたいです」と根津氏
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