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はりゅうウッドスタジオ制作『木造仮設住宅群: 3.11からはじまったある建築の記録』


『木造仮設住宅群: 3.11からはじまったある建築の記録』
はりゅうウッドスタジオ 制作/藤塚光政 写真(ポット出版 1,890円)

福島県南会津の建築事務所、はりゅうウッドスタジオ。彼らが日本大学工学部建築学科 浦部研究室らとともに、木造の仮設住宅を建設。その活動や考え方、仮設住宅に暮らす人々の姿を、藤塚光政の写真を中心に記録した一冊だ。

仮設住宅は、通常プレハブ建築協会によるプレハブで建てられる。しかし、東日本大震災ではその被害の甚大さから仮設住宅の公募が行われ、さまざまなタイプの木造による仮設住宅がつくられている。はりゅうウッドスタジオの芳賀沼整が着目いたのは、ログハウスによる仮設住宅である。

「当初は、仮設住宅の予算内でログハウスを建てることはできないのではないかと考えていたが、建材を極力用いず、構造、断熱材、内装材・外装材を兼ねる原初的な建築であるログハウスが、むしろ向いているのではないかと考えるようになった」と綴っている。

地元福島県の杉材をふんだんに使い、工場生産部材を多くすることで現場での施工を容易にし、仕上げ工程が少ないことからスピーディに仕上げることもできる。さらには解体後に部材の転用や再利用ができるなど、ログハウスによる仮設住宅のメリットは大きい。

なによりそこに暮らす人々の笑顔が、「これで我慢してください」と言われているかのような既存のプレハブ住宅の人々とは違って見える。

一次募集ログハウスができ、二次募集に向かう際には、建築家の難波和彦のアドバイスを受けて、縁側や風除室をログ内に収めたり、間仕切り壁を移動可能な収納家具と兼ねるなど、さまざまな改良がなされている。

さらには、玄関を向かい合うように配置したり、中央に集会所を設けるなど、人々の交流をうながすコミュティづくりにも配慮。さらに驚くべきことに、日本大学工学部建築学科 浦部智義研究室によって地中熱と太陽光を利用した集会所が、東北大学工学研究科 五十嵐太郎研究室によって塔と壁画のある集会施設もつくられている。

それらの建設から完成まで、さらに入居後の人々の暮らしぶりまでを、藤塚光政の写真が記録する。太陽の光を浴びる洗濯物、立ち止まって語らう人々、自分で畳を敷いたという夫婦ーー暮らしに思いを馳せるような、力強い写真ばかりだ。

本書のなかでいちばん心に残ったのは、「今回の震災復興は、過去の事例からだけでは答えのでないものであり」という前提に立ち、「これまでの災害復興の概念の殻を破るためのプログラムづくり」として考え、短期間でさまざまな実践を重ねていることだ。

さまざまな視点から読むことのできる本書を、建築家にかぎらず多くのクリエイターにぜひ読んでもらいたい。B5判、128ページ。

以下、目次より。

1章 希望 木造仮設住宅が描き出す日常
2章 福島の杉 豊かな県産材でまかなう
3章 ログで建てる マシンカットログ工法と工程
4章 木の空間 1次公募ログハウス仮設住宅
5章 進化した木の空間 2次公募ログハウス仮設住宅
6章 まちをつくる 配置計画とコミュニケーション
7章 三春町の木造仮設 地元の力を結集
8章 板倉の木造仮設 4寸角材と厚板でつくる杉の家
9章 恵向公園ロハス集会所とグループホーム 自然エネルギーを生かす
10章 南相馬集会所  記憶に刻む、壁画と塔
11章 KAMAISHIの箱 建築家として、新構法の提案
12章 二地域居住と復興住宅 これからのために