『ネクスト・ソサエティ』
P. F. ドラッカー 著/上田惇生 訳(ダイヤモンド社 2,310円)
評者 工藤青石(デザイナー)
「デザインの果たすべき役割」
デザインはその時代、その場所でしか本来的な役割を果たすことができないものであるから、デザイナーは今どこに立ってデザインをしているのかを常に注意深く確認していく必要がある。そしてその先に進むべき方向に向かって、具体化していかなくてはならない。
情報は無限に存在しているが、その中から何を読み取るのかが重要であることは、すでに語り尽くされてきた。しかしその方法は明確に示されてはいない。さらに情報は情報であって事実とは限らない。思考と考察によって現在に対して認識を高めなくてはならない。
ドラッカーは感覚的に発言をしない。その言葉は時に予言的であったり、このうえなく断定的であるけれども、その内容はすべて歴史および現在起こっている現象の多角的な分析による根拠に基づいている。この本で語られるテーマは多岐にわたる。「ニューエコノミー」「コンピューターリテラシー」「少子化」「近代企業」「金融サービス」「都市社会」……。個々の事象を相対的な関係性のなかに置きながら語ることで、マスメディアが伝えている局部的な断片としての情報とは一線を画した事実を浮かび上がらせることを可能にしている。経済やマネジメントといった題材をベースとしながらも、広い興味と知識、経験と洞察力によって、結果として本質的な真理を伝えている。
冒頭に1つの結論が示されている。
「日本では誰もが経済の話をする。だが日本にとって最大の問題は社会のほうである」。
ドラッカーは50年ほど前に初めて来日して以来、日本のさまざまな変化に対して、直接的に関わりを持ちながら、深く見つめてきた。そして今、日本の現状に警告を発している。この本の内容は日本に限定して書かれたものではないが、良くも悪くもこの国が他と比較して、変化に対してそのスピードや幅を受け入れ、さらなる変化を創り出していく土壌があることは確かであろう。その意味において、時代の動向が象徴的にこの国に表出するのは自然なことかもしれない。
20世紀、大部分が経済に飲み込まれていったデザインが、21世紀もその延長線上にあることが最良なのか? という疑問は多くのデザイナー自身やそれを取り巻く環境のなかにすでに存在している。それは単に今までを否定することではない。環境の変化に伴って求められる、デザインが果たすべき役割の変化についての考察が急がれているということだ。それに対する答えを導き出していくことによって、有効に機能するデザインが生み出される可能性は広がっていくだろう。
ドラッカーはこの本のなかで語っている。「そもそも世界はグローバル化に向かっていない」と。ビジネスの世界で最も影響力のある思想家がこの言葉を発している。情報のコントロールによってつくられてしまう現状の認識を再確認する必要がある。現在を捉え、その先を考えるうえで、この本は今起こっている多くの重要な事実を示している。(AXIS 113号 2005年1・2月より)
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