vol.14
「Parrot by Art Project」

10月に亡くなった米アップル社の元CEO、スティーブ・ジョブズは、その経営者としての才覚をテクノロジーとアートの融合に注ぎ込んだ。同社に限らず、これからの製品づくりにおいて、この2つの分野のバランスはとても重要なポイントになると考えられる。

アップル社は、それをインハウスデザインチームの充実によって実現してきたが、同様のベクトルをアンドレ・プットマンやマルタン・ゼケリといった外部デザイナーとのコラボレーションによって追求してきた企業に、フランスのパロット社がある。

そのパロット社の「Parrot by」シリーズから、フルップ・スタルクがデザインを手がけたワイヤレス・ハイファイスピーカー「Zikmu」をモチーフに、映像作家の山口崇司が完成させたビジュアル作品が、AXISビル内のリビング・モティーフ2階で12月28日(水)まで公開されている。

金管楽器を伏せたようなフォルムの「Zikmu」は、左右のスピーカー間もワイヤレス接続されてケーブルレスであるなど、その機能性も含めて筆者が気になっていたデザインだ。山口の映像作品は、その滑らかな筐体がボディカラーと同色の液体の中からせり上がってくるようなイメージにまとめられ、あたかも実際の製造工程もそうなのではないかと思わせる面白さがある。

また、映像の中で林立する「Zikmu」には、モダンな都市の街並みを思わせるところもあり、ディスプレイの手前に置かれた実物の製品とも呼応した、1つのインスタレーションを形成している。

今回の映像は、CGのプログラミングまでをひとりで行う作家の個性も際立つものだったが、もし、他の「Parrot by」を採り上げたアートプロジェクトが今後も展開されるのであれば、ぜひ見てみたいものだと思う。




大谷和利/テクノロジーライター、東京・原宿にあるセレクトショップ「AssistOn」のアドバイザーであり、自称路上写真家。デザイン、電子機器、自転車、写真に関する執筆のほか、商品企画のコンサルティングも行う。近著は『iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』『43のキーワードで読み解く ジョブズ流仕事術:意外とマネできる!ビジネス極意』(以上、アスキー新書)、『Macintosh名機図鑑』『iPhoneカメラ200%活用術』(以上、エイ出版社)、『iPhoneカメラライフ』(BNN新社)など。