機能第一主義から生まれたかたち
「Drawer Shelf」

「美しい『つくり』をデザインする」

芦沢啓治さんの与件は、「通常隠れているスライドレールをデザインし直し、機能から導き出される金物の意匠と木の組み合わせによる引出しをつくる」ということでした。また、各段を横にスライドできる遊びを加え、全体としては木材がずれながら積まれたようなシンプルな見た目をイメージされていました。

私たちの最初の壁は、シンプルで美しい見た目と、機能性・安全性を備えたつくりの両立の難しさでした。レールは当然滑らなければなりませんが、ずらし方によっては転倒の危険性もあります。木と金物の接合も、イメージどおりに見せるには複雑な構造が必要でした。最初の提案は、全ての条件を満たすためにシンプルな見た目とは裏腹に複雑な内部構造となってしまいました。

芦沢さんからの回答は、「もっとシンプルなつくりに」ということ。私たちはいつの間にか見た目とつくりを別物にしていました。思えば芦沢さんは最初から、機能やつくりを第一として、そこから生まれる美しさを求めていたのです。複雑なつくりは、製作段階に入って、コストと工期に直結しました。協力会社に図面を持っていくと、決められた予算と時間では、とても収まりません。芦沢さんの求める、シンプルで美しいつくりの意味に改めて気づかされました。

繰り返し検討・提案を重ね、一流の職人の手により何とか完成に至った、この「Drawer Shelf」には、その「ものづくり」への追求故に、設計時点では想像しなかった美しさが備わっていました。(文/岩橋恭平、CS事業部 コマーシャルデザイン統括部 プランナー)

「Drawer Shelf」
デザイン:芦沢啓治(芦沢啓治建築設計事務所)
協力会社:クレアプランニング(株) ほか
撮影:ピップス 御園生大地

展示や内装の設計・施工を手がける丹青社が、2009 年から新入社員教育の一環として行っている「SHELF制作研修」。本連載では、研修に参加された丹青社の方々に、それぞれの作品について語っていただきます。また、この研修成果については、20119月27日(火)〜10月5日(水)までアクシスギャラリーで開催された「人づくりプロジェクト SHELF展」において、展示報告されました