REPORT | アート
2011.11.11 13:52
「東京アートミーティング」とは現代アートに、デザイン、建築などの異なる表現ジャンルが出会うことで、新しいアートの可能性を提示しようというもの。昨年に続いて2回目となる本展は、妹島和世+西沢立衛/SANAAと同館の共同企画。「新しい環境」をテーマに、国籍や世代を超えた14カ国28組の建築家、アーティストが参加した。模型、ドローイング、映像、彫刻、写真、ミクストメディアのインスタレーションなどさまざまな表現方法によって、3.11を含む2011年以降の空間や環境の未来を模索している。
▲近藤哲雄「A Path in The Forest(森への小径)」2011
エストニアの首都タリンで計画が進むインスタレーションの模型と写真。古い宮殿の周囲に広がる樹齢300年の木々からなる森に、小さな径をつくるプロジェクト
▲マシュー・リッチー+アランダ\ラッシュ+ダニエル・ボシア&Arup AGU「ドーン・ライン(アマテラス・ヴァリアント)」2011
「宇宙とは情報が境界線上に描かれるホログラムとして理解できる、絵のようなもの」というリッチーの世界観を表現
本展は、第12回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展(2010年)で国際企画展総合ディレクターを務めた妹島和世氏、アーティスティック・アドバイザーの西沢立衛氏と長谷川祐子氏(同館チーフキュレーター)が企画した展覧会「People Meet in Architecture」がベースになっている。このとき彼らは、建築家だけでなくアーティストの作品も含めることで、建築の持つ雰囲気やその場における体験を重視することを掲げた。今回はヴェネツィアでの展示に新たな作家を加え、建築を展示するというよりは、未来に向けた「建築的な想像力」の紹介に重点を置いたという。
▲(手前)妹島和世+西沢立衛/SANAA「ロレックス・ラーニングセンター」2007
(奥)ウォルター・ニーダーマイヤー「Bildraum S 240」2010
会場構成はSANAAが担当。2つのフロアにまたがる広い展示空間には仕切りがなく、個々の作品があえて互いに影響を与え合うような距離感で配置されている。「ヴェニスのときはそれぞれが独自の空間をつくることがテーマだったが、今回は1つの部屋に同居するようなかたちで多様性、調和をつくり出し、かつ個別に建築的なイマジネーションを表現してもらった」(SANAA)。
展示室内での順路は決まっておらず、鑑賞者は森をさまようように作品の間を行き来しながら、作家がみせる「新しい“感じ”」を受け取っていく。そこで伝えられるのはあくまで“感じ”や“雰囲気”であって、明確な言葉やコンセプトで語られることはない。アートと建築の領域をあいまいにしている点も先鋭的な試みではあるが、なかには歯がゆさやわかりにくさを感じる鑑賞者もいるかもしれない。
▲(手前)石上純也「ガラスのシャボン玉」2011
厚さ3mmの25枚の板ガラスだけで構成された作品。地面とガラスの間を密閉し空気を吹き込むと、板ガラスが湾曲して膨らむ。硬くて柔らかい建築を提案するかのようだ
(奥左)ダグ+マイク・スターン 「BBMet_09.20.2010_s4748.2」2010
(奥右)ダグ+マイク・スターン 「Big Bambu Beacon at 20 weeks」2008-2009
そうしたなかで鑑賞のヒントとなるのが、SANAAが設計した「ロレックス・ラーニングセンター」(2010年竣工)である。
同センターはスイス連邦工科大学ローザンヌ校キャンパス内に計画されたもので、敷地に大きな布をふわりとかぶせたような166.5m×121.5mもの巨大な空間。そこに図書館や多目的ホール、オフィス、カフェなど多様なプログラムを内包している。内部に大きなうねりのような起伏を設けたり、かたちやサイズの異なる14の中庭としての穴が開けられるなど、室内を仕切りのない1つのランドスケープとして設計することで、多様な性質を持った空間を生み出している。
▲荒神明香「コンタクトレンズ」2011
日々の風景を抽象化させ、空間概念を再構築するインスタレーションを制作する
会場で最初に展示されるのは、同センターの50分の1の建築模型(SANAA)とウォルター・ニーダーマイヤーによる写真、最後にはヴィム・ヴェンダースの3D映像が登場する。ヴェンダースの「もし建築が話せたら…」は、ロレックス・ラーニングセンターを舞台に擬人化された建築が「私はどのような存在であるか」を語りかけるというものだ。そこでは自然を知覚し、人間に寄り添い、どんな時間と場所をつくり出しているかという建築側からのメッセージが、わかりやすく表現されている。
▲セルガスカーノ「(from) OURShELVES」1999-2011
透明なアクリル板の上にさまざまな素材や部品をオブジェとして配置。セルガスカーノのオフィスの棚に実際に並ぶスタディ模型だという
同センターの持つ浮遊感や透明感、境界のあいまいさ、開放性、自然との関係性。それらによって空間と人間が親密化していくような建築のあり方。それらが企画者の伝えたい「これからの“感じ”」の一要素に当たるのではないだろうか。
▲AMID. cero9「ゴールデン・ドーム」2011
パリ建築大学のイベントのために計画したバルーン型のパヴィリオン。自然の中にある幾何学の合理的な検討から導いたという
例えば、建築家・石上純也氏による板ガラスだけでシャボン玉の表面のような動きをつくり出す「ガラスのシャボン玉」や、619個のレンズで空間体験を変容させるアーティスト・荒神明香の「コンタクトレンズ」、スペインの建築家・セルガスカーノやAMID.cero9のインスタレーションなど。これら若手作家の作品に、浮遊感や透明感といった言葉が当てはまるような“感じ”がしないだろうか。(文・写真/今村玲子)
「東京アートミーティング(第2回)[SANAA・MOT共同企画]
建築、アートがつくりだす新しい環境――これからの“感じ”」
会 場:東京都現代美術館
会 期:2011年10月29日(土)~2012年1月15日(日)
開館時間:午前10時~午後6時
休館日:月曜日(2012年1月2日、1月9日は開館)
年末年始(12月29日〜1月1日)、1月4日、1月10日
観覧料:一般1,100円 大学生・65歳以上850円 中高生550円