「KENCHIKU I ARCHITECTURE」vol.3ーーフランスの若手建築家たち

今回「KENCHIKU | ARCHITECTURE 2011」に参加したフランスの若手建築家6組のほとんどが、日本の「新建築賞」(吉岡賞)と言うべきAJAP賞(Les albums des jeunes architectes et des paysagistes)を受賞しています。このレポートの最終回では、彼らの特徴を紹介します。


GRAU

▲2000 logements – Plaine du loup ©GRAU

ゲルハルト・リヒターの絵画から影響を受け、「グレー」を意味する名前を自らの事務所につけた4人組「GRAU」。無個性でありながら、無数に存在するグレー。彼らは都市的なレベルで建築的な実践を繰り広げ、5万戸の住宅を供給するシステムを定めたり、これからの都市の方向性に関するアイデアを提出したりと、言わば都市計画のプロジェクトを多く手がけています。

▲Bordeaux 50,000 project ©GRAU

「私たちは常に都市に関わる仕事をしています。つまり、都市というものが常に変容し続ける限り、私たちの仕事に終わりはないということ。そして、都市が完璧に機能することなんて不可能です。このような都市の “非純粋性、未完成さ”は、私たちの原動力であるとも言えます」

このように語る彼らにとって、すべてをコントロールしようとする意図よりは、「実験」の重視こそが重要です。ある明確な理論を都市に適応するより、都市という最大の未知数に対してどのようなアイデアを提示することができるか、そこに彼らの活動の特徴があると言えるでしょう。


La ville Rayée

▲Adventures Close to Home © La ville Rayée

30代までの建築家が集まる「KENCHIKU | ARCHITECTURE 2011」の参加者のなかで、80年代生まれの最年少の3人組がLa ville Rayéeです。さまざまなプロジェクトを興味深い人々とのコラボレーションによって展開し、他方で先鋭的な建築誌『face b』を編集出版しています。

▲Le Moulin © La ville Rayée

「僕らがしようとしていることは、“物事の正体を暴く”こと。つまり、それらをより一般化させ、オブジェとして幅広く流通させること。建築はそんなに大層なものではありません。でもそこから何かを掘り起こすことができる。だから僕らはその周りで“採掘”しているのです」

彼らは建築をその他のものと区別せず、あくまで日常に溢れるものの一要素として見つめます。多様なメディアによって対象化される建築をより広い視野でとらえながら、環境のなかからさまざまな要素を集め、空間を構築することに関心があるようです。


NP2F

▲CNAC project © NP2F

NP2Fは、フランスで活動する建築家が日本の状況へと目を向ける1つの理由を語ってくれました。曰く「理由はどうあれ物事は常に流動的なのだから、都市に対する見方も変えるべき。だからこそ変化の激しい日本や、発展途上の国に目を向けるべきはないでしょうか」。

彼らは都市レベルでの実践から単体建築の設計までさまざまなレベルで仕事をし、マクロスケールのなかにミクロスケールが現れる瞬間を重視します。なぜなら、たとえ不特定多数に向けた大規模な建築物であれ、それぞれの人はそれぞれの個人的な方法でその場所を使うからです。

「僕らはある種、建築や空間の純粋性やプリミティブなとらえ方を信じています。建築はクライアントと共にできるものであって、僕らにとって建築とは、ほとんど感覚的とも言えるとらえ方から翻訳される経験のようなものです」

▲Boulogne house © NP2F

彼らはこうした観点から互いの意見を戦わせ、多くの時間をディスカッションに費やします。ただ「心地よさ」を追求するのみならず、空間の感覚的な解釈を通して、プロジェクトのなかで多様なスケールがつながり合う1点に注意を向けることに、彼らの狙いを見ることができます。


Thomas Raynord / BuildingBuilding

▲Maison Des Grands Lacs Du Morvan © Building Building

一方、建築家は問題解決や何か/誰かを救うためにいるのではなく、提案するためにいるのだと語るの
が、Thomas Raynaud / Building Buildingです。その名前からもきわめて「建築家らしい」発言ととれますが、同時に彼は語ります。

「私たちは、可能な限り空間と強固なつながりを持とうと試みるとともに、とても実際的な事柄にも関わっていかなくてはなりません。これはすべての建築家にとって本質的なことです。しかし大抵はほどほどに初歩的な疑問しか投げかけません。私たちはシンプルな切り口から1つの可能性を与えることを試みているのです。完璧にディテールをコントロールしたり、外観に興味があったりするわけではありません」

▲Centre Pompidou Mobile © Building Building

問題の設定をクリアにすることで、提案する可能性をより大きくできること。彼が「提案」を重視するとき、その裏にはこうした考え方があるのです。分析的な関連付けを避けたいと語る彼は、ある固定的な判断から脱して先入観やプロジェクトの条件にとらわれないことを重視します。


Atelier RAUM

▲Scénographie à Bignan © Atelier RAUM/トップ画像は、restaurant scolaire ©Atelier RAUM

これまでの4組がフランス都市部を拠点とするのに対し、地方で活動する建築家を以下2組紹介します。まずは、ナントを拠点とするAtelier RAUMの3人です。彼らは、6組のなかでもとりわけ「手を動かす」ことを重視すします。以前アートビエンナーレのために「敷石」を用いた作品をつくったときのエピソードをこう語ります。

「ビエンナーレですから建築法規上の制約を気にする必要はなかったのですが、私たちはこの敷石を従来の公共空間のデザインに使ったらどうなるか、と想像しました。すると突然、法規の嵐が襲ってきます。面白い状況です。実際、法規上でも曖昧なところにあるのです。40cm以上の高さになると手すりが義務付けられるのですが、ぎりぎりのところで手すりなしでいけそうな解決策が見つかりました。このように1つの作品の応用を考えることは面白い作業です」

「RAUM」という名前の由来は「部屋」と「空間」の両方を意味するドイツ語の語源、「森の中に空き
地をつくる」こと、あるいは詰まったものをえぐり空間をつくることにあります。これが示唆する通り、小空間やインスタレーションから大きな建築物や都市デザインにいたるまで、「建てる」ことにこだわらず、またその規模に関わらず、実験的に場や状況をつくり出すことを彼らは意識します。

▲la ville molle © Atelier RAUM


Est-ce Ainsi(Xavier Wrona)

▲Nauze house © Est-ce ansi

Atelier RAUMが地方を拠点とするのに対し、パリ郊外を拠点とするのがXavier Wronaです。今回フランス側から参加する建築家のなかで、最も「思索的」な存在と言えるでしょうか。建築家とはどのような存在なのかを根源的に問い続ける彼が事務所につけた名前は、「かくして」という意味を持つ「Est-ce ainsi」です。

「例えばクライアントが来て、こういうのがいい、ああいうのがいい、と言ってきたとします。私は、センス悪いな、と断ったりはしません。私の関心があるのは、クライアントとのやり取りのなかの細かい要求ではなく、なぜ今の時代、彼のような人がこういう趣味を持つのだろう、という点です」

▲Lyoen project © Est-ce ansi

ミシェル・フーコーの影響を語り、ディディ・ユベルマンを引用しながらプロジェクトを考える彼は、決して孤高の哲学者ではありません。コントロールされ尽くした都市部に比べてよりカオティックで貧困層の多い郊外は、彼にとって取り組むべき課題を多く与えてくれる場所です。彼が都市部ではなく郊外を拠点とする理由は、それら現実に建築家がどのように向かい合うことができるのかを考えるためだと言えるでしょう。



建築とは建設と同義ではありません。ただ「建てる」というのみならず、建築家という存在は、あるいは建築的なアイデアとは、どこでどのように生かされるのか。今回ご紹介した6組の建築家たちの活動は多岐にわたりますが、その背後にはこうした問いかけが潜んでいるように感じます。

駆け足で3回にわたりお届けしてきた「KENCHIKU|ARCHITECTURE 2011」プロジェクトにあわせたフランス都市建築だよりは今回が最後です。会期中にどのような話題が浮かび上がってきたか、また今回の参加者のより詳しい人となりについては、また別途ご紹介したいと思います。最後までお読みいただきありがとうございました。(文・写真/RAD)



RAD(Research for Architectural Domain)/2008年に川勝真一と榊原充大が設立した、京都を拠点とする建築リサーチ組織。日本での建築センターの設立を目指し、建てることのみに限定せず建築を眺め、建築的思考が社会に果たし得る役割の幅広さを考えている。拠点とする「radlab.」で開く建築展覧会「rep- radlab.exhibition project」の企画運営、レクチャーやインタビュープログラムの企画実施をはじめ、空間構成や編集作業等を行う。