▲メインビジュアルは、公募で選ばれた岸木麻理子さん(武蔵野美術大学)のデザイン。
先週25日から六本木のAXISギャラリーでスタートした、金の卵 オールスターデザインショーケース展。今年は「日常/非常 ハイブリッド型デザインのすすめ」をテーマに、53点もの作品が並んだ、見応えのある内容となった。
日常生活で使うプロダクトやサービスに、そのまま非常時にも役立つ機能を持たせること。さまざまな提案の背景にあるのは、震災から5カ月の間、デザインの立場から何ができるかを学生の視点で考察した結果だった。
▲黒川 愛砂/女子美術大学
「Choco Light (チョコライト)」
テーマは「周囲の人と共に安全へ繋げる」。一見すると板チョコが付いたポーチだが、非常時にはチョコレートを割るように縦に割り、2つに折るだけで簡単に使える懐中電灯が6本取り外せる。これを周囲にいる人々に配ることで、安心させ、連帯感が生まれれば、冷静な行動を取る勇気が湧いてくるだろう。
▲篠原 由樹/千葉大学
「Jaxs-Jack x Stool」
普段はジャッキの上下駆動の特性を活かして、座る人の体格に合わせて座高を変えられるスツールとして使用。非常時には座面と脚を取り外してジャッキとして救助活動できる“JAXS”を考えた。車を持っていない人がジャッキを持つ環境ができることで、非常時により多くの命が救出されることを願う。
出展者のなかには、東北に住む学生や、免許合宿に参加していた学生など、実際に被災した者もいる。それらの体験がどのようにデザインへ結び付いたか、作品に添えられたパネルや作者のプレゼンから読み取ることができる。
▲原田 悠史 /東北芸術工科大学
「Ling」
自身が東日本大震災で被災し、いちばん苦労した給水作業の体験から生まれたアイデア。代用された給水用容器のペットボトルを、より機能的に運べるツールを提案。
▲長洞龍生 他有志 /宮城大学
「PET’s」
「被災地の学生として何ができるのか」という問いに対して具体的なプロダクトより「心」を表現したいと考え、時には災害を引き起こす同じ自然が私たちにもたらすその生命力を見つめ、表現することで復興に向けた力強い心の有り様を伝えた。会場内に展示された1,000体におよぶ小さな生き物たちは、彼らの前向きなパワーとエネルギーを私たちに感じさせる。
衣や住とともに、クローズアップされる「食」のデザイン。出展作品の選考基準は「目から鱗が落ちるような発想」というものだった。数々の提案から浮かび上がるのは「ミニマム(最小限、最低限)」や「新しい構造」といったキーワードだ。
▲深野 史栞/筑波大学
「花麺−コンパクトなカップラーメンの提案」
震災直後、ダンボール内の余分な空間を減らして一度に少しでも多くのカップ麺を被災地に運べたらと考えた。また、コンパクトにすることで鞄やデスク横の引き出しなど小さな隙間にも非常食として常備できる。女性にとって買いやすく持ち運びやすいカップラーメンがあると良いと感じた。
▲谷 尚樹/筑波大学
「はなぜん」
非常時には、机や食器等がなく劣悪な環境で食事をしなければいけない時がある。東日本大震災では、避難所の床で食事をする光景を見たが、これは人間味の薄い悲しい状態である。人間は、食べ物への感謝の念や、食事という行為の尊厳を持っている。そこで日常的にも使えて、食事のしつらえを手軽に楽しく整えるための紙のお膳を提案する。
▲井上 大平 、森 博史/法政大学大学院
「thesis」
原子力エネルギーで扱われる燃料棒をモチーフにしたフロアスタンド。 今、非常の象徴となっている原子力を生活空間に置くことで、日常と非常の境を曖昧にする。このスタンドから発せられる光は、原子力でつくられた電力そのものであり、私たちが原子力の恩恵を受けているという事実を突きつける。また、鼓動する光は、無機的な人工物に生命を宿し、私たちに緊張感を与える。
▲「LIFE LIGHTプロジェクト」
震災直後、多摩美術大学の間宮 尊がインターネットを通じて呼びかけ、共感した人々と共に制作した2,000個のLEDライトを被災地に届けた。5月初旬には、自身で南三陸町の避難所に足を運び、 一人ひとりに手渡した。受け取った子供たちは、この小さいけれども明るく光る手作りのライトで遊び、また、各自が持つことで、まだ電気のない真っ暗な屋外にあった仮設トイレに行くのに役立ったという。
テーマ作品以外にも、授業課題作品、大学院生の作品、被災地で実際に取り組んだプロジェクトの紹介という3つのジャンルがある。それぞれの展示物の背景にある考え方は何か、プロジェクトの実現に向けてどんな苦労があったのか。明日 8月30日(火)18:00〜、9月1日(木)18:30〜、9月3日(土)15:00〜、3回のプレゼンテーションに会場(AXISビル B1F「シンポジア」)へ足を運んで、ぜひ確かめてほしい。