イタリアでは1年以上のロングラン
イタリア流型やぶりな人間賛歌、映画「人生、ここにあり!」

「人生、ここにあり!」というイタリア映画の紹介です。原題は「Si può fare(やればできる)」。2008年にイタリアで公開されるや社会現象にまで発展し、1年以上にわたってロングランを続けた作品です。

舞台は、バザリア法という新たな法律の制定により精神病院が次々と廃止されていく1980年代のミラノ。それまで施設の中で薬を投与されながら、社会から隔離された生活を送ってきた患者たちは、社会に出て、自らの能力を生かしながら自立への道を歩むことになります。そんな彼らの前に現れたのが、急進派の労働組合員であるネッロ。過激な言動が災いして元精神病院の患者たちで構成される「協同組合(Cooperativa) 180」に異動を命じられたネッロは、精神病の知識など全く知りもせずに、元患者たちと無謀ともいえる事業を立ち上げようと奔走します。

ネッロは元患者らで構成される組合員たちと協議し、自立のための仕事として建築現場の床張りを請け負うことを決めます。しかし、最初の現場となったブティックで、予定していた材木が届かないという事態が発生。このとき、メンバーのひとりが廃材を使って寄せ木張りを行うアイデアを思いついたことで、状況は一変します。苦肉の策として行った廃材や端材で床にモザイク画を描く手法が評判となり、次々と新たな仕事の依頼が舞い込むようになるのです。

患者たちに「本物の仕事」と「正当な報酬」を与える ことに情熱を燃やすネッロの夢は膨らみます……。元精神病患者たちの成功物語は、あきらめないで夢を持ち続ければいつか実現するという、まさに「やればできる」を実証する映画です。医師の指示を受け、投薬量を減らしながら人間性の回復を目指す過程を描くなど、難しい題材にも向き合いながら、笑いあり、涙ありで、重要なメッセージを投げかける本作が長編3作目というジュリオ・マンフレドニア監督の手腕は見応え十分です。

本作で描かれる「協同組合(Cooperativa)」は、相互扶助の精神にのっとり、共存共栄を図るというイタリア特有の活動組織です。2,500近くあるといわれる組合が展開する職種は、工芸やグラフィックアートなど実に多彩。社会的弱者の仕事づくりや訓練場としても、大きな役割を担っています。精神病院の廃止に世界で初めて挑んだイタリアが、「作業療法」という名のもとで、社会的弱者の立場にある人たちの尊厳を守ろうとする実話に基づいたストーリー。この国の懐の深さ、そしてデザイン大国と言われる所以を改めて見たような気がしました。強力におすすめしたい1本です。

▲クラウディオ・ビジオ演じるネッロ(写真左)と彼の理解者であるサラ。

「人生、ここにあり!」
公開:2011年7月23日 シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー
配給・宣伝エスパース・サロウ
協力:イメージ・サテライト
特別協力:イタリア文化会館