ギャラリードゥポワソン
「マーク・モンゾ個展ーー18kt Drawings」、レポート

マーク・モンゾは、1973年生まれのスペインを拠点とするジュエリーデザイナー。コンテンポラリージュエリーと呼ばれる、“現代アート”ような新領域で、今、最も注目される若手作家だ。「身に着けるデザイン」と呼ぶべきモンゾの作品は、たっぷりの茶目っ気とともに、これまでのジュエリーに対する印象をガラリと変え、貴金属への見方や可能性についても実に興味深い視座を与えてくれる。

▲「White Form」シリーズ。3Dプリンターを使用するのでなめらかな表面にできるのだが、モンゾはあえて“バリ”に見える部分もつくり、「型で成形した」風を装う。素材オタクならではの、ディテールへのこだわり

現在、ギャラリードゥポワソンではモンゾの個展「18kt Drawings」を開催する。3Dプリンターで成形したナイロン製のペンダントヘッド「White Form」シリーズや、直径1mmの線状のゴールドまたはシルバーを2本重ねた「2Linesシリーズ」といった新作が揃っている。

▲「Pocker brooch」はポーカーのチップを重ねたような金メッキのブローチ

展覧会のタイトルでもある「18kt Drawings」は、18金の芯でつくったペンによるドローイングのシリーズ。鉛筆誕生以前に、イタリアなどで建築の設計や素描などの際、特に用いられていたシルバーポイント(銀筆)に着想を得たという。これは当初グレーとして描かれた線が、時間の経過とともに酸化することで色が変わるという特徴がある。モンゾはこれを金でつくってみようとリサーチを重ね、ゴールドポイントを制作。グラビア誌などに使われる紙を用いて、芯の先やRのついた側面をこするようにして描いた。

▲「18kt Drawings」に使用したゴールドポイント

展示されていたドローイングは、ポーカーのチップを紙の上に無造作に投げ、偶然置かれたところをゴールドポイントでなぞって描いたもの。18金の硬質で煌びやかなイメージとは真逆の、グレー絵の具を薄めた水彩のようなやわらかさが印象的だ。

▲「Color eclipse brooch」。アルミニウムのプレートに自動車用の白い塗装を施し、さらにスプレー塗料で色を重ねたもの

既成の価値の逆転。これはまさにモンゾがジュエリーデザインで追求し続けているテーマだ。スペインのバルに置かれている爪楊枝やチープなオモチャの指輪のシェイプを真似て金でつくったり、プラスチック製品を鋳造した真鍮の上から金メッキをかけたり、あるいは金の上から蛍光色を塗装したり。ダイヤや金といったラグジュアリーな素材をプラスチックや真鍮と等しく扱うことで、モノの価値観や素材の持つ性質、イメージを問い直そう試みる。

▲会場の展示風景

見る人は、どのようにしてつくったのかわからない。しかし素材の特質を知る人ならば、製法もわかる。作家と身に着ける人だけが共有できる、“秘密”のような要素も楽しい。(文・写真/今村玲子)

▲マーク・モンゾ氏


Marc Monzo´個展「18kt Drawings」

会期 2011年6月3日(金)〜6月19日(日)
会場 ギャラリードゥポワソン(東京・恵比寿)



今村玲子/アート・デザインライター。出版社を経て2005年よりフリーランスとしてデザインとアートに関する執筆活動を開始。現在『AXIS』などに寄稿中。趣味はギャラリー巡り。自身のブログはこちらまで。