REPORT | アート
2011.04.19 17:38
世界各国の若手作家を紹介する森美術館のMAMプロジェクト。現在は、ベルリン在住の現代アーティスト田口行弘(1980-)が紹介されている。
▲森美術館での「モーメント:パフォーマティブ・ヒルズ」より。壁の取り外されたバックヤード自体もインスタレーションの1つ
展示室の壁のパネルが何枚かパタパタと外れ、まるで意思を持った生き物のように廊下を“ワッセワッセ”と進み、貨物用エレベーターに乗り込んで、外に脱走してしまう——。会場で見たのはここまでだったが、この映像作品はワークインプログレスで会期中も制作が続いていく。パン、パン、パンという壁パネルの軽快なリズム感。真っ白な壁が表情豊かに動き回る様は実に小気味よく、ずっと見ていても飽きることはない。
▲取り外された壁に、ワークインプログレスの映像作品が出現
ベルリンを拠点とする現代アーティスト、田口行弘の代表作である「Moment」シリーズは、ストップモーションによる映像作品。ワンシーンごとにモノを少しずつ移動させながら、何千枚というおびただしい数の写真に収め、それらをつなげるというシンプルで古典的な手法をとるが、それ以外はあらゆる意味で異色のプロセスだ。
▲1つの作品ごとに、数千枚も撮るという写真
作家自身が「パフォーマティブ・インスタレーション」と呼ぶように、映像、写真、音楽、パフォーマンス、インスタレーション、ストリートカルチャーといったさまざまな要素が盛り込まれている。また、作品はサイトスペシフィック。田口はその場に立って初めて、何をつくるかを決めるという。手に入った食材でその日のメニューを考える料理人のように、土地の景色やそこにあるものからインスピレーションを得ているのだ。コンセプトやアイデアをもとに計画は周到にされるが、その時々で立ち現れるさまざまな環境の変化によって、作品は如何様にも変化していく。むしろハプニングやアクシデントを作品のなかに積極的に取り込むライブ感にこそ、田口の持ち味はあるのではないか。森美術館から脱走した壁たちが今後どうなるのか、それは作家自身にもわからない。
▲無人島プロダクションでの展示風景
所属ギャラリーである無人島プロダクション(東京・清澄白河)でも個展が開催されており、こちらは拠点であるベルリンを含む、海外でのパフォーマンスを紹介する。
例えば、映像作品「contact」は、ブラジルの海岸で現地のカップルを両端に立たせて、ポルトガル語を解さない田口がその間を行き来しながら“人間糸電話”よろしく男女の会話を取り次ぐというコミカルなもの。田口が汗をだらだらかきながら、覚えた“音”をたどたどしく相手に伝える様子には思わず笑ってしまうが、同時にピースフルな気持ちにも包まれる。
▲古い建材などを用いた会場構成も田口が手がけ、この過程さえもワークインプログレスの映像作品となる
田口の作品から共通して受け取るのは、自らの生身の肉体を駆使してこつこつと働く、その積み重ねによって、いつかは人と人をつなげ、どのような壁でも越えてみせる!という強い意志だ。ユーモアたっぷりに、ひたむきに前を見つめる。そんな姿勢が世界をゆるやかに変えていくのかもしれない。(文・写真/今村玲子)
「MAMプロジェクト014: 田口行弘」
会 期:2011年3月26日(土)〜8月28日(日)
開館時間:月・水〜日10:00-22:00、 火10:00-17:00(5月3日は22:00まで)
会期中無休
会 場:森美術館
入 館 料:1,500円(一般)
*森美術館「フレンチ・ウィンドウ展」と共通、
展望台東京シティビュー(スカイデッキ除く)への入館料含む
田口行弘展「Pan! Pan! Pan!」
会 期:2011年4月9日(土)-5月14日(土)
開館時間:火〜金12:00-20:00 土・日11:00-19:00
月・祝 休館
会 場:無人島プロダクション
*鑑賞券プレゼント 森美術館の鑑賞券(フレンチ・ウィンドウ展との共通券)を5組10名様にプレゼントいたします。ご希望の方は、タイトルを「田口行弘展プレゼント」と明記のうえ、氏名(フリガナ)、住所、所属名(会社・学校等)とともに、axismag@axisinc.co.jpまでお申し込みください。なお、発送をもって抽選と変えさせていただきます。
今村玲子/アート・デザインライター。出版社を経て2005年よりフリーランスとしてデザインとアートに関する執筆活動を開始。『AXIS』のほか『リアル・デザイン』『ブラン』(えい出版社)などをメインに寄稿中。趣味はギャラリー巡り。自身のブログはこちらまで。