REPORT | アート
2011.04.14 08:00
雑誌や広告などで幅広く活躍する写真家、ホンマタカシ。今年初めに開かれた金沢21世紀美術館に続いて2都市目となる本展では、写真だけでなくシルクスクリーンや映像、インスタレーションなどさまざまなメディアを横断しながらドキュメンタリーのあり方を模索する。
▲会場の展示風景。「Widows」(2009年)シリーズより。イタリアの町ラパッロに住む11人の未亡人の写真、また彼女たちのアルバムの中から取られたスナップ写真の複写などから成るシリーズ。
「ニュー・ドキュメンタリー」というタイトルは、ホンマタカシが報道写真を含むドキュメンタリー写真に対する1つの提案としてつくった言葉だ。東日本大震災の報道写真について同氏は「どうも画一的な写真が多いと感じた」という。「まだまだ写真の力が発揮されていないのではないか。本展ではドキュメンタリーの別のあり方を提示してみたかった」。
例えば、入場してすぐの「Tokyo and My Daughter」(1999-2010年)シリーズ。47点から成るこれらの写真は、ホンマタカシが10年以上かけて少女の成長を記録したものだ。生まれたばかりの赤ん坊が幼児に、そして少女になっていく様子と、東京という風景の変貌が重ねられる。10年という長いようで短い時間のはかなさと、のびのびと成長する娘を見守りつづける親の愛情が画面全体から伝わってくるようだ。しかし実際は、モデルは作家の娘ではなく、写真の中にはホンマタカシではなく娘の親が撮影したものも混ざっている。
▲会場の展示風景。「Trails」(2010-2011年)シリーズより
また、「Trails」(2010-2011年)シリーズにおけるホンマタカシは、「知床の鹿狩りにまつわる場面を取材した」という。真っ白な雪の上に鮮血が飛散している写真を見て、鑑賞者の多くは致命傷を負った野生動物が息も絶え絶えになって逃げる様子を想像するだろう。しかし写真には鹿が一頭も写し出されていなければ、そもそもその“鮮血”と思しき赤い点が果たして血液なのかもわからない。
このようにタイトル(テキスト)や暗示的なイメージによって意図的に鑑賞者の先入観を操作することで、ホンマタカシはドキュメンタリーが伝えようとする“真実”とは何かを鋭く問いかける。
▲会場の展示風景。「M」(2000-09年/2010-11年)シリーズより
「内覧会当日の朝5時までかかって調整を重ねた」という会場構成も見どころの1つ。数十もの写真に、360度取り囲まれる緊張感。床一面に増殖するように置かれたシルクスクリーン。あるいは、冊子として再構成された雑誌や広告の仕事の数々。これらもまた“画一的な写真展”のあり方に対する1つの提案ではないかと思われる。(文・写真/今村玲子)
「ホンマタカシ ニュー・ドキュメンタリー」
会 期:2011年4月9日(土)〜6月26日(日)
開館時間:11:00〜19:00
(金・土は20:00まで/最終入場は閉館の30分前まで)
*東日本大震災後の諸事情により、開館時間が変更になる場合があります。
休 館 日:月曜日(ただし5月2日は開館)
*鑑賞券プレゼント この鑑賞券を5組10名様にプレゼントいたします。ご希望の方は、タイトルを「ホンマタカシ展プレゼント」と明記のうえ、氏名(フリガナ)、住所、所属名(会社・学校等)とともに、axismag@axisinc.co.jpまでお申し込みください。なお、発送をもって抽選と変えさせていただきます。
今村玲子/アート・デザインライター。出版社を経て2005年よりフリーランスとしてデザインとアートに関する執筆活動を開始。『AXIS』のほか『リアル・デザイン』『ブラン』(えい出版社)などをメインに寄稿中。趣味はギャラリー巡り。自身のブログはこちらまで。