REPORT | 講演会・ワークショップ
2010.10.19 19:10
9月20日(月・祝)と10月11日(月・祝)の2回にわたって開催したAXISモバイルトークセッション5「廣村正彰さんと行く、西武池袋本店こんなのどうかなプロジェクト」。それぞれ10名の参加者の方とともに、グラフィックデザイナーの廣村正彰氏と、インテリアデザイナーの米谷ひろし氏(トネリコ)の解説のもと店内を巡った様子をレポートします。
廣村氏が西武池袋本店の構造改革に乗り出したのは、約2年前。百貨店がどこも厳しい状況下に置かれているのは西武も例に洩れないが、まず廣村氏が注目したのは、この百貨店で働く8,000〜10,000人の人々が、よりプライドを持って働くためにはどうしたらいいか、ということだった。そこで廣村氏は、内部の人に向けて「こんなのどうですか?」と提案するかたちで、「こんなのどうかな」キャンペーンを展開。それがやがて対外的なキャンペーンにもつながっていった。
改革にあたって、西武池袋が1980年代に売上日本一になった要因を廣村氏は分析した。それは、“時代を見立てる”デザインの力が大きく寄与していたのではないかと。当時、田中一光氏をはじめとする錚々たるクリエイターが西武に関わり、コミュニケーションデザインに力を注いでいた。しかし、今回は、80年代に見られたコミュニケーションを主体としたイメージ戦略ではなく、西武池袋を支える個々の人々の力で百貨店を変えようとしている。
それは西武側も同様の考えで、一例でいうと、全館を見渡しても中国語やハングルのサインは見当たらない。それは各フロアの人が質問に応えたり、案内をしたりといった具合に、人で対応しようという考えの現れだ。日本語のサインにしてもできるだけないほうが良いと判断し、設計している。また、廣村氏が「空間はフラットではなくできるだけニュートラルに。明るく白っぽい場を目指した」と言うとおり、天井は低いものの、以前に比べて格段に明るくなっている。
とはいえ、現実問題として、売り場のデザインを変えるためには、百貨店ゆえの苦労がつきまとった。売り場を1日もクローズしないために、営業終了後から朝方まで施工し、朝6時には現況復帰のための作業に切り替えて、終日営業する、ということの繰り返し。「これまで什器を変えるぐらいの簡易改装しか行われなかったのはそのため。しかし、それではお客様から見たら変わった感じには乏しい」と米谷氏は言う。
今回、「光の時計口」は工事囲いをしたものの、そのほかの大半の売り場、例えば、「デパートに置かれている品物は、すべてがギフトになる」をコンセプトに掲げた「be my Gift」コーナーや、従来の手芸売り場のイメージとは違う、誰もがものづくりをしたくなるような「100 IDEES(サンイデー)」(フランス語で100のアイデアの意)など目玉となる売り場が、苦労と努力の末に完成し、モバイルーク中につい見入ってしまうほど、想像力をかき立てる場となっていた。
実際に店内を歩いてみれば、以前の姿を知らない人でも、つい引き込まれてしまう売り場や品物に出会えるのではないだろうか。百貨店は、楽しい時間を過ごせる場。そういう気持ちをもう一度、人々に感じてもらおうという思いが、変化を遂げた空間のあちこちから感じられるようだ。
廣村氏は「最終的には明治通り沿いのファサードを変えていきたい」とこれからを語った。店内のポスターに「完成のはじまり」というコピーが掲げられているとおり、西武池袋本店の改革はこれからも続いていく。その変化にも期待したい。