今回は、大阪名物とも言える建築レクチャー「アーキフォーラム」についてご紹介します。
「アーキフォーラム」は、1993年に大阪の建築専門書店・柳々堂が発行した同名の雑誌がルーツ。創業118年という町の小さな書店、柳々堂は、建築・デザイン系の在庫が常時約1万5千点在庫されており、本屋としての機能のみならず、関西の建築・デザインネットワークにおいても重要な役割を果たしています。「アーキフォーラム」は1997年より開始。関西を拠点とする若い建築関係者が、年代わりでコーディネーターを務め、さまざまなゲストを迎え、議論を深めてきました。約12回を1シリーズとし、建築に関する講演会や議論の場が少ない関西において、建築家を招き、議論の輪を広げることを目的としています。毎年1シリーズ通して、1,000人以上の学生や社会人など、多分野の人々が来場し、入場制限が出ることもたびたび。運営面においても自立しており、すべてボランティアによって活動が支えられています。
2010年度の第13期アーキフォーラムは「誰がために建築は建つか」というタイトルのもと、全13回が展開されています。コーディネーターは満田衛資氏(構造家・満田衛資構造計画研究所)と山口陽登氏(株式会社日本設計)の両氏。主旨は以下です。
「すべてのひとが共有できる問いを発したい。今の日本という社会では、建築は信用されていない。経済原理に流されるまま風景を奪い続ける建物、あるいは習慣に従い無批判に林立する建物など、広い意味での『箱モノ』は後を建たない。(中略)『誰がために建築が建つか』——この問いは建築家あるいは建築設計者のためだけにある問いではない。(中略)建築関係者にとって不可避な問いを、世代や職域を越えて広く社会に発信してみたい。建築家や建築設計者が個別に議論すべき魅力的なキーワードの一段落前に必要な、核となる普遍的な問いを、建築関係者の無意識に潜在させること。それこそが、2010年以降の建築を考えるための礎になると信じている。」(アーキフォーラムWEBより抜粋)
今期の第2回となるアーキフォーラムは、山梨和彦氏(日建設計、設計部門副代表)、ゲストコメンテーターに『建築ジャーナル』の山崎泰寛氏を迎えて開催。「BIMは誰のためのツールか?」というタイトルでの講演でした。BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)とは、ここ1年kくらいで急速に認知された建築用3次元ソフト。3次元の形状情報だけでなく、設備配管、構造、積算などのさまざまな建築情報を同時に持ちながらデジタル化できるツールとして、注目されています。
山梨氏は、日本の建築界において、建設プロセスにBIMを導入している第一人者です。氏は、これまでの建設プロセスにおける弱点として、耐震偽造問題に端を発する建築業界全体への不信感、設計や施工の不整合、プロジェクトの長期化、コストとプライスの二重化による不透明性、構造的低収益性を上げました。これらの問題を解決するためにBIMが有効であることがさまざまな実例からわかりやすく説明され、中でも特に重要なのは、BIMを介せば設計段階に留まらず施工や施設管理という建物のライフサイクル全体を考え、さまざまな段階であらゆる人々と共有・恊働できることだとのこと。つまり、設計者、エンジニア、施工者、クライアントが従来の役割分担以上に、さまざまな局面に介入できるため、合意形成が取りやすく、完成する建築に多くの意図を取り込むことができるということです。ウェブ2.0や集合知と言われている状況に対して、BIMを介して走らせることができるのです。これはサスティナブルな建築を成立させるうえでもひじょうに重要です。また山梨氏は、従来の建築家は経験や直感を多く用いて設計をしてきたが、その経験や直感は他者と共有しづらいものであるとも述べました。その経験や直感をBIMでシュミレートし、それらが間違っていないことがデータとして示せれば建築形態と、それに伴う目に見えない環境を他者と共有できるというわけです。
多くの変数を扱えるBIMは有効ではあるものの、それを使えば誰もが創造性ある建築を設計できるわけではないのは当然。山梨氏によって紹介された建築も、BIMを使ったからできたというものではありません。これらは山梨氏の思考と多くの変数を同時に扱える新しいツール(BIM)により、直感とデータが、相互に豊かな関係性をつくることから新しい建築が生まれています。
現在、都市や郊外を問わず風景はどんどん貧困になってきています。それらを構成するボキャブラリーの少なさには驚かされます。マスに向けた大量生産によって工学的に効率だけを求めたものや、消費意欲を駆り立てるためにつくられたグラフィックのような取って付けたファサードが縦に伸びる都市。自動車ありきでつくられたショッピングモールや飲食チェーンがズルズルと横に広がる郊外。私たちは、これらの場にどう介入し、どう空間を取り戻せるのでしょうか。そのヒントが山梨氏の言葉の中にありました。
今期「アーキフォーラム」の向かう先がひじょうに楽しみです。次回6月26日のゲストは、DESIGNEAST実行委員メンバーでもある柳原照弘。「建築だけではないこと、その考察」というタイトルで、お話するとのこと。今後も刺激的なゲストが続くはずです。ぜひ一度足を運んでみてはいかがでしょうか? (文/家成俊勝、dot architects/DESIGNEAST実行委員会)
次回のアーキフォーラムについて
誰がために建築は建つか
建築だけではないこと、その考察/柳原照弘
日時:
2010年6月26日(土) 17:00-19:00(16:30開場))
会場:TOTOテクニカルセンター大阪
大阪市中央区久太郎町3-6-8
御堂筋ダイワビル2F(地下鉄本町駅9番・12番出口より徒歩4分)*駐車場は、利用できません。
定員:80名(当日先着順)
参加費:一般1000円 学生500円
問合せ:柳々堂書店 tel.06-6443-0167
この連載「DESIGNEAST PRESS」では、“国際水準のデザインを関西に”と、2009年より始動したデザインプロジェクト「DESIGNEAST」の実行委員会の皆さんに、DESIGNEASTの進捗状況や関西でのデザイン、芸術、建築、ファッションなどの情報を発信していただきます。
DESIGNEAST実行委員会(柳原照弘/原田祐馬/家成俊勝/水野大二郎/多田智美/古島佑起)