イタリアの伝統素材
「植物タンニンなめし革」の魅力

イタリア植物タンニンなめし革協会とイタリア貿易振興会により、植物タンニンなめし革のワークショップ が開催されました。6月10日(木)にエントリーを締め切り、6月末日にプレゼンボードの提出期限を控えた国際デザインコンペ(詳細は後半参照)にも関連した内容です。

14世紀からイタリア・トスカーナ地方に伝わる製法による皮革素材、植物タンニンなめし革。今回の「ペッレ・ピュー・クレアティビタ(革+創造性)」と銘打たれたワークショップは、1994年に創設されたイタリア植物タンニンなめし革協会によるものです。同協会には現在、24社のタンナー(なめし革加工企業)が加盟しています。

▲ワークショップ会場のスパイラルホールに、1社およそ2製品ずつが自社の素材製品を展示。色や表情、香りも異なる49のなめし革が並ぶ

鞣(なめ)すとは、動物の皮を裁断、染色、加脂(かし)などの多くの工程を経て、約40日で高級素材に生まれ変わらせる作業です。植物タンニンを使ったなめし加工は、栗やミモザなどの樹皮、枝、幹、葉から抽出した素材で行われてきました。クロム(鉱物)などを使用しないため、金属アレルギーへの安全性も謳っています。

▲アルゼンチン産の植物、ケブラーチョからの抽出素材。燻されたように香ばしく、甘い独特な芳香がある

畜産業の食肉加工(主に肉牛)の過程から生まれる原皮と同様に、植物素材も家具や紙(セルロース)の製造過程で生まれる余剰物を使用。なめし工程に使用される水のリサイクルにも工場で取り組み、環境へのインパクトを考えた伝統産業のあり方がわかる解説でした。

▲講師はトスカーナで植物なめし皮の生産に携わる、レオナルド・ヴォルピ氏

生産者によるレクチャーの後は、 自身の工房 で注目の革製品を送り出しているアンドレア・トライーナ氏が登場。ステージ上で植物なめし革を使ったプロダクトの制作をライブで披露する趣向です。氏は冒頭、サルトルの『嘔吐』の一節を引き(ドアノブが意志を持つかのように感じられる場面)、植物タンニンなめし皮を扱う際に、ハッキリと素材から意志を感じると語りました。

▲革を使ったアートワークも手がけるアンドレア・トライーナ氏

一枚の皮から、短時間で靴とバッグをつくってみせたトライーナ氏。植物タンニンなめし皮の特性、工夫して自作した道具の紹介など、会場からの質問へ軽快に答えながらの作業でした。大学で心理学や量子物理学(哲学)を学んだというトライーナ氏は、一生の仕事としてアルティジャーノ(職人)の道を選択。彼は「アルテ(芸術)ジャーノ」を名乗っています。

▲靴型を切り抜いた表面にカッターで大胆に傷を付け、革の表情を引き出す

▲1枚の革を縫い合わせてつくられた靴。革を生きた素材として扱うため、接着剤をいっさい使わないのだとも

▲完成したバッグ。植物タンニンなめし革の製品は、年月を経てパーソナルなものになっていくという

同協会の協力のもと、コミュニケーション芸術工房「ラ・ステルバイア」が主催する 国際デザインコンペ は、広告界で著名なオリヴィエロ・トスカーニ氏を審査委員長とし、建築家/デザイナーのミケーレ・デ・ルッキ氏、DIESELのブルーノ・コリン氏、MITのカルロ・ラッティ氏、文化服装学院の深澤朱美氏、ルーカ・モリナーリ氏らを審査員に迎えて開催。現在、世界各国からエントリーを受け付けています。

▲デザインコンペ審査員を務める、イタリア植物タンニンなめし革協会のアンドレア・ギッザーニ会長

プレゼンでは革の難燃性、床素材として使ったときの温もりなどが語られ、リビングソファやベッドルーム、ホテルのエントランスやエレベーターホール、ヨット内装などへの使用例が紹介されました。「皮革産業のマーケットを靴や革小物以外にも広げたい」と言う産地の人々は、植物タンニンなめし革を使ったライフスタイル全般への幅広い提案を求めています。

▲イタリア植物タンニンなめし革協会のマークは、なめしの全工程がトスカーナの中で行われたことを示す

日本のデザイナーや建築家、アーティストの個人やグループに強い期待を寄せるイタリア伝統製品の生産者と協働するチャンス。6月10日(木)までに こちらのサイト から書類をダウンロードしてエントリーし、6月30日(消印有効)までにプレゼンボードを提出するスケジュールです。9月末にはファイナリストが発表され、入賞者はミラノでの展示機会が得られる予定です。