ミナペルホネン 皆川明 インタビュー
ファッションにおけるデザインサスティナビリティの在り方

▲minä perhonen piece の店内風景。

1995年に皆川 明氏が設立したファッションデザインのブランド「minä perhonen」。「時の経過によって色褪せることのない服」を目指す真摯な姿勢に裏付けされた美しい作品は、国際的にも評価を得ています。また、『美術手帖』(2002年7月号)や『ECO-CHIC: The Fashion Paradox 』(Sandy Black, 2008/Black Dog Pub Ltd)など、アート誌でも取り上げられ、ファッション業界のみならず、横断的な文脈においての評価も高いことで有名です。

2010年3月、minä perhonenより、新たに実験的な店舗が京都・河原町に誕生しました。minä perhonen で生まれたカケラ(piece)をリ・デザインする「minä perhonen piece, 」。その始動にあたって、ファッションデザインの消費・生産および再生産の体系とサステナィビリティについて、皆川氏にお話を伺いしました。

minä perhonen piece, を設立するに至った経緯を聞かせください。

皆川  私たちは、これまで自分たちで素材からつくることを15年間続けてきました。そのなかで、製造工程でどうしても出てしまう残布を見るたびに「これを新しいプロダクトに変えることはできないだろうか?」という思いがずっとあったんです。これまで、それは小さいバッグなどで表現してきましたが、さらに可能性を見つけたいな、と。昨今、製造過程においてもエコであるかどうかということは注目されています。ですが、「長く使う」「材料を無駄にしないようにつくる」という意識はまだ十全に形成されていないのではないかと思っているんです。「つくること」は「使うこと」にもつながるのですが、”継続的に使うことを意識させるものである”ことが、ある意味本当のエコロジーではないでしょうか? それを具現化しようと考えたのが、このお店なんです。

▲スタッフと談笑する皆川氏。このとき着ていたセーターにもpieceが縫合されていた。

minä perhonen piece, は、今回、東京ではなく京都にオープンされました。京都の場所性については、どのようにお考えですか?

皆川  京都には、すでに新しいコレクションとアーカイブ、異なる2つの時間軸をお見せする場所として、minä perhonenがあります。製造過程で余った布をプロダクト化するプロジェクトを同じ空間で行うことで、自分たちのモノづくりの流れが、より伝わるのではないかと考えたんです。数十年前まで、ハギレを使用することは当たり前で、「修繕する」という行為からパッチワークのようなデザインが生み出されましたよね。このような行為を再評価し、同様の意味を持ちつつも着物文化が残る場である京都で作品をつくることは、とても理にかなっているのではないかと思っています。

今回の活動は、エコを内包したデザインのサスティナビリティを指摘されているように思いますが。

皆川  そうですね。今回、「デザインの永続性」と「原材料を有効に使用するということ」の2つの視点があります。「物質を有効に活用する」ことは、「デザインを有効に使う」ことと同義ではないかと思います。「こういう視点もある」という提案です。

▲minä perhonen piece, の店内には、ラボラトリィと名付けられた作業スペースがあり、スタッフの作業風景を覗くことができる。

「ラボラトリィ」という作業スペースを覗き見られる点もこのお店の特徴ですね。

皆川  新品のモノでも、つくられる過程において時間が十分に含まれています。しかし、それをお客様が目にする機会はなかなかありませんよね。今回は一点一点違ったモノができ上がるという面白さも含めて、完成までの時間をご覧頂けたらと思って、この場所をつくりました。完成するまでにかけられた時間の経過を作品のなかにより強く感じてもらえたらと思います。

時間の経過を感じてもらうことで、訪れた人とスタッフとの間に新しいコミュニケーションが生まれ、より密接な関係性を築くことができるのですね。ありがとうございました。

▲minä perhonen piece, のプロダクト。一点一点スタッフが手縫いしている

minä perhonen piece, を通して、ファッションデザインにおけるサスティナビリティの可能性を探る皆川 明氏。私たちがプレタ・ポルテ(既製服)という消費文化を享受しはじめて、まだたったの半世紀程度です。それまで、衣服は日常的実践として何度も修繕され、つくり替えられ、ユーザーとともに丁寧な時間を歩んできました。しかし、消費と生産および再生産を加速することで、経済体系を維持するファストファッションがもたらす倫理的な問題は、もはや、ひとりのデザイナーの力で解決することは困難です。だからこそ、問題を共有したうえで、新しい提案を確実に実現していくことが重要なのではないでしょうか。

この意味において、minä perhonen piece, が提案するデザインサスティナビリティとは、ユーザーとデザイナーが問題意識を「共有する」新しい在り方ではないかと思うのです。世界的に見てもファッションデザイナーによるサスティナビリティの取り組みは事例が少ないなか、今後 minä perhonen piece, の活動はどのように展開されるのか、そしてユーザーはどのように社会空間を形成していくのか、今後も minä perhonen の活動から目が離せません。

そんなことを考えつつ、京都にお立ち寄りの際にはぜひminä perhonen piece, を訪れてみてはいかがでしょうか。(インタビュー・写真/水野大二郎、ファッションリサーチャー/DESIGNEAST実行委員会)

minä perhonen piece,
〒600-8018
京都府京都市下京区 河原町通り四条下ル市之町251-2 寿ビルディング4階
営業時間:12時~19時
定休日:月曜(月曜祝日の場合は営業)
TEL:075-353-8937
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この連載「DESIGNEAST PRESS」では、“国際水準のデザインを関西に”と、2009年より始動したデザインプロジェクト「DESIGNEAST」の実行委員会の皆さんに、DESIGNEASTの進捗状況や関西でのデザイン、芸術、建築、ファッションなどの情報を発信していただきます。

DESIGNEAST実行委員会(柳原照弘/原田祐馬/家成俊勝/水野大二郎/多田智美/古島佑起)