1953年からあるデザインを新解釈した
ドイツビール「フェルティンス」の新ボトル

前回に引き続き、ドイツビール「フェルティンス」の話題をお届けします。

今回は緑のシュタイニーボトルの話。これはフェルティンスに1953年からあるフォルムを新解釈したものです。ラベルを貼らずピュアに緑のガラスだけにするため、ここでもレリーフ構造でロゴを浮き立たせています。エルゴノミックなフォルムで握り具合がよく、ボトルを持ったときにちょうど指がロゴをタッチ、触感もなかなかのもの。「伝統とモダンの架け橋」でありたいというブランド精神をデザインで表現したとのこと。インダストリアルデザイナーのアレクサンダー・シュネル=ヴァルテンベルガーとオーバーラントグラスという大手ボトルメーカーとのコラボレーションで完成し、マテリアルの約80%がリサイクルガラス。実はこのボトル、飲食業界では数年前から出回っていて、トレンドに敏感な人々の間では既に評判だったのですが、一般の店頭での販売は、新しいビール箱とともに2009年8月にスタートしました。

メインターゲットとなるのは、ボトルから直接カッコよく飲むのが好きな20〜30代。クラブやバー、あるいはロックコンサートなどのイベントで、このボトル片手の若者が目につきます。


イメージキャンペーンではベルリンのグラフィティアーティストのスーパーブラスト(SuperBlast)が「フェルティンス・エディション」を制作したり、ポスターは美術展の告知広告まがいだったりと、アートとの接点を狙っています。

カルチャーシーンもこの“デザインボトル”には重要なアピールの場。今年1月のケルンでのインテリアデザイン週間「パサージェン」では、新しいデザインギャラリー「CONTAIN Gallery」が「フェルティンス・デザインラウンジ」に変貌しました。

カリム・ラシッドも「DJクリーミー」としてゲスト出演。このインテリアのコンセプトはコンペ形式で募集され、採用されたのはオランダ・マーストリヒトのファビアン・フォン・シュプレッケルゼンとマティアス・ヴィッテによるユニット「First Aid Design」のアイデア。「ボトルというプロダクトを媒介に、いかにゲストとのコミュニケーションを図るか」という問いへの回答がこれです。マグネット式の「ピクセルウォール」ではゲストが3,000個の栓を自由に動かして”栓描画”をクリエイト。インタラクティブにブランドと遊びました。

フェルティンス社は2008年度売上げが2億6,200万ユーロ、前年比4%増と、低迷するビール業界の中でも異例の好成績を上げています。なかでも若い層に人気のブランド「V+」は10%もの伸びを記録。この商品は、80%がビールで、残り20%がレモネード&グレープフルーツ、アップル&ジンジャーなどという“ビールミックスドリンク”。上の看板はエナジードリンク&ガラナ・フルーツが入ったV+の広告です。

フェルティンスのテレビコマーシャルもユニークです。葉巻が似合い男の中の男といった雰囲気を漂わせるルディ・アッサウアーがイメージキャラクター。アッサウアーは若い頃はサッカー選手として活躍、引退後はFCシャルケ04のジェネラルマネージャーを長年務めました。新しいコマーシャルではハリウッドのスター、ブルース・ウィリスとも共演しています。

私生活でも実際にアッサウアーと恋人同士だったドイツ男性憧れの女優との共演で、男と女の日常のワンシーンをユーモラスに描いたシリーズコマーシャルも大人気でした。(文/小町英恵)

この連載コラム「クリエイティブ・ドイチュラント」では、ハノーファー在住の文化ジャーナリスト&フォトグラファー、小町英恵さんに分野を限らずデザイン、建築、工芸、アートなど、さまざまな話題を提供いただきます。