フランクフルトのモーリッツ出版から今年の2月に『階段 窓 トイレ 世界で最も風変わりな家』というそれはステキな建築絵本が出ました。モーリッツ出版は15年ほど前に設立された児童書出版社で、酒井駒子、市川里美といった日本人作家の絵本もここからドイツ語版が出ています。この建築絵本、オリジナルはポーランド語で『D.O.M.E.K.O』(家)といい、このたびドイツ語版が完成したのです。
著者のアレクサンドラ・マホヴィアクとダニエル・ミジエリンスキーはともに1982年生まれの若いデザインデュオ。ワルシャワ美術アカデミーのグラフィックデザイン科を卒業し、ワルシャワで「ヒポポタム・スタジオ」を設立。本やウェブ、タイポグラフィーのデザインと取り組んでます。この建築絵本は「建築との出会いは冒険と同じ。この本は建築の世界がどんなにすばらしいものかを子供たちに伝えたい。」と企画され、ポーランドの国際児童書委員会からは2008年度のブック・オブ・ジ・イヤーに選ばれました。
ドイツ語版の表紙には隈 研吾設計でフランクフルトの応用美術館の庭にある現代の茶室「テーハウス」が登場。「空からふわりと飛び降りたようで、芋虫みたいにも見えるし、エスキモーのイグルーみたいにも見える、不思議だなあ」と、きっと子供たちの好奇心を掻き立てることでしょう。この茶室の例では、空気圧で膨らませるハイテク素材の膜構造という点を理解してもらわないといけないわけですが、隈 研吾自身がプーっと膜構造に空気を吹き込んでいる様子が後ろのページにイラストされていて子供でも一目瞭然です。
ヨーロッパから始まって地球を一周、フィンランドの「UFOの家」にイランの「砂の家」、東京の「カーテンウォールの家」からチリの「地の果ての家」まで、計35の型破りな家々がイラストで紹介されています。建築物だけでなく、その周囲の環境や建築物と人間、動物との関係もうまく捉えてあり、建築に関するインフォメーションも子供にとてもわかり易い。
小学校の低学年から中学年にお薦めですが、この本を楽しむのに年齢の上限はないはず。親も一緒に想像の“建築世界旅行”をして楽しめます。全国新聞の書評で知って早速この本を息子にプレゼントした友人がいます。8歳のパウル君が夢中になってたまではよかったのですが、「パパ、今年の夏休みにはオーストラリアのジグザグの家と梯子で上る日本のタカスギアン(高過庵)を見に行きたい」と言われて、住宅ローンの額が頭に浮かび返事に困ったという切実な笑い話もありました。
ヒポポタム・スタジオのサイトで絵本の立ち読みができます。(文/小町英恵)
この連載コラム「クリエイティブ・ドイチュラント」では、ハノーファー在住の文化ジャーナリスト&フォトグラファー、小町英恵さんに分野を限らずデザイン、建築、工芸、アートなど、さまざまな話題を提供いただきます。