ザ・プロトタイプ・アーカイブ 9
UNL「新トロンキーボード」(2006)

今から130年以上前に米国で生まれたタイプライター。そのとき制定されたQWERTY(クワーティー)と呼ばれるキー配列は、現在のキーボードでもほとんど変わらない。一説には「早く打つと印字バーが絡むため、あえて入力効率を落とす配列が定められた」とも言われる。さらに、日本語をローマ字入力する場合、QWERTYキー配列の必然性はほとんどない。

およそ20年前に開発されたトロンキーボードは、新しいコンピュータ体系の実現を目指す、「トロン(TRON)」プロジェクトから生まれた。まず、数百人の手のサイズや指の動きの計測を元にキーの位置や間隔を決め、筋肉の緊張を軽減する前後10度、左右10度の傾斜を付けた。また、数百万文字の文章データを解析し、新規のキー割り当て(TRON配列)を規定。人差し指や中指に頻度の高い文字を割り当てたほか、頻繁に利用するシフトキーは弱い小指でなく親指で操作する。

写真の次世代型トロンキーボードは、モバイル環境での利用も想定。以前のものと比べると、外観でエルゴノミクス性を主張しない、通常のキーボードに見える。しかし、形状は完全に左右対称であり、左右を分離して前後左右の傾斜を付けて配置できる。もちろん合体させてコンパクトにも使える。カナ入力ではTRON配列のほか、一般的なJIS配列も利用可能。英数字配列は、広く普及するQWERTY配列よりも打ちやすいと定評がある、Dvorak(ドボラック)配列も使える。感覚的なインタラクションとして重要なキータッチにもこだわり、キーのパーツも最新技術による信頼性と打鍵性に優れたものとなっている。(AXIS 123号 特集「21世紀のID」より