新刊案内 美術作家のアトリエを収めた写真集、久家靖秀さんの『Atelier』

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本誌89号~113号まで3年近くにわたり連載としてお送りしていた『庭からの視線』。このシリーズで撮影を担当いただいた写真家の久家靖秀さんが、美術作家のアトリエばかりを収めた作品集を、11月にFOILより刊行します。

「取材はどこでやりましょうか?」。デザイナーの方にそう尋ねられても、「ご都合のいいところで」とは決して言いません。「できれば、事務所にうかがいたい」とハッキリ主張します。理由は明快で、モノごとを発想したり、制作を行っている「現場」には、言葉以上の情報が隠れていたりするからです。今この人はどんなことに関心があるのかな? その答えが、事務所やアトリエに無造作に積み上げられた本であったり、机周り、メモの貼られた壁などにけっこう落ちていたりするものです。

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Photo by Yasuhide Kuge

久家さんの新刊『Atelier』には、そんな創作現場が醸し出す魅力的な光景が多数登場します。船越 桂や川俣 正、村上 隆といった現代日本を代表する作家たちのアトリエ写真を眺めていると、作家の微妙な息づかいや張り詰めた雰囲気、苦闘の痕が、まるで「空気」ように伝わってくるようです。

久家さんは、そんな現場について次のように語っています。

自由な部屋
何をしても良い、汚しても、壊してもいい。寛容な場所。
そこにいるのはアーティストを精神的に支えたり、
実務を支えるスタッフの存在。
ちゃんとしていない皿、変なマグカップ。
あるいはアトリエを離れて、
作家が自分の作品を他の協力者を得て実現する場所。
どこに行ってもあるのは、電気ドリル、
かならずあるのはmakitaのねじ回し。

(あとがきより)

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Photo by Yasuhide Kuge

この写真に込められた久家さんの視線は、何かを探り出そうとして、一心不乱に対象を注視するというのではありません。もっと客観的に、引いた視線でもって、作品や作家自身といった主対象からこぼれ落ちた存在のほうに、むしろ関心が向けられているような気がします。誰もが見過ごしてしまいがちな小さな断片を拾い集め、パズルのピースのように繋いで、大きな存在として浮かび上がらせる……。そういえば、「庭からの視線」の取材時も、久家さんの視線はしばしば私たちの意図とは別のところに向けられていたような気がします。

とてもいい写真集です。ぜひお手にとって、アトリエが放つ「空気」を感じてください。

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Photo by Yasuhide Kuge

収録されている作家の方々
香月 泰男(洋画家)
会田 誠(美術家)
舟越 桂(彫刻家)
大野 一雄(舞踊家)
草間 彌生(美術家)
荒川 修作(美術家)
川俣 正(美術家)
村上 隆(美術家)
宮島 達男(美術家)
折元 立身(美術家)
宇川 直宏(映像作家/デザイナー)
飴屋 法水(美術家)
立花 ハジメ(映像作家/デザイナー)
神山 健治(アニメーション作家)
山口 晃(美術家)
熊田 千佳慕(画家)
敬称略

書籍概要
タイトル:Atelier
写真:久家靖秀
デザイン:山野英之
予価:2940円(本体2800円)
判型:A4判変型(280mm×210mm)
ページ:144ページ/ソフトカバー