REPORT | プロダクト
2009.08.10 20:54
インテリアライトとして日常を照らしながら、災害時には懐中電灯に変身する三洋電機の「エネループランプ」。AXISビル内のインテリアショップ「リビング・モティーフ」では、9月11日(金)の販売開始に先駆け、8月17日(月)より製品の展示および予約受付(現在は終了)を開始する。そこで、リビング・モティーフのバイヤーである秋野麻理さんが、エネループランプを企画制作したデザイナーの水田一久さんと意見を交換しました。
エネループランプの第一印象
秋野:
当店でも照明器具は多数取り揃えていますが、ここ数年のトレンドはやはりLEDです。価格がまだ高いこともあって、メーカーもさまざまな工夫をされていますが、水田さんが今回発売となるエネループランプをデザインするうえで留意したのはどんなことですか?
水田:
製品の役割に沿って、いかにシンプルに美しく見せるかという点です。通常点灯時の白色にしても、常夜灯として使用する青色にしても、あくまで用途に沿ったものをという意識で堅実に判断をしてきました。今日お持ちしたのは試作品なのですが、発売ギリギリまで、使う人に愛着を持っていただけるよう細部の質感などを高めていくつもりです。ランプをご覧になった印象はいかがですか?
秋野:
最初は「何だろう」と戸惑い、説明を聞くうちに「そういうことか」と納得しました。ランプ本体を回すだけで光が切り替わるところも、持った瞬間にサーチライトが点灯することも直感的。店内でご覧になっているお客様を見つけたら、まずは手に取ってみることをお勧めするつもりです。スタイリッシュな無接点充電など、セールスポイントは多いはず。近年はお客様の防災意識も高いので、ベッドサイドでディスプレイする提案も考えています。
水田:
リビング・モティーフのようなインテリアショップに自作の製品が並ぶのは、デザイナーとしてとても光栄です。デザインに込めた思いをお客様にきちんと届けるという意味で、どのような場所で製品が売られるかはひじょうに重要なことだと常日頃から思っていました。懐中電灯はこれまでも取り扱われていますか?
秋野:
以前よりご要望が多いアイテムです。米国で警棒代わりに使われているマグライトや、マーク・ニューソンがデザインしたフロスの懐中電灯は好評でした。とはいえ「これぞ」という製品は少ないので、デザインと機能を吟味してアイテムを選定しています。エネループランプは、懐中電灯の一種として見た場合も斬新ですし、小型のルームライトとしての機能も備えているので、9月の発売が楽しみです。
隠しておきたい必需品に困惑
水田:
近年の家電デザインについて、バイヤーとしての立場から不満を感じることはありますか?
秋野:
お客様からのお問い合わせやご要望が多いのは、電話機ですね。皆様が口々におっしゃるのは、「欲しいと思えるようなデザインがないのだけれど、何か良いものはない?」ということなので。必要なものだし、隠せないものなので、お客様も真剣に探されるのでしょう。
水田:
それが懐中電灯の場合は、“必要だけれど隠せる”製品であることが問題でした。戸棚の奥にしまっているので、災害時に探し出せなかったり、使いたいときに電池が切れていたり。そんな状況を、私は神戸の震災で実際に体験して考え込みました。本当に必要なものならインテリアとして普段使いさせなければならない。そんな気づきが、エネループランプをつくったきっかけです。
家電に求められるインテリア性
秋野:
エネループランプは、量販店でも販売されるのですか?
水田:
おそらく販売します。しかし製品をつくって量販店に置けば自動的に売れるという、これまでの図式には収まらないでしょう。特にこの商品の場合、箱売りされる際にどれだけ製品の意図が伝わるかが未知数です。ちょっと変わったデザイン家電、というふうにしか見られないことも大いに考えられます。ですので、お客様にきちんと商品の意図を説明していただけるという秋野さんの発言は、とても心強く思いました。リビング・モティーフで、家電製品を扱う難しさはありますか?
秋野:
量販店と価格が異なることが、避けられない難点ですね。しかし、だからといってすべての製品が扱えないというわけではありません。プラマイゼロの加湿器やダイソンの掃除機などは量販店でも売られていますが、当店で新作をディスプレイすれば買ってくださる方も多くいらっしゃいます。水田さんはインハウスデザイナーであるわけですが、メーカーの社員として良いデザインを生み出す秘訣は?
水田:
家電製品のデザイナーの役割は外形意匠だけでは無いと、私は常々思っていました。だから社内の若手デザイナーには、商品企画に参画したり、営業に行きお客様の声を聞くことを奨励しています。エネループランプの評価で嬉しかったのは、一般の方がブログで書かれていた「大御所デザイナーじゃなくてもいいデザインが出てきた」という感想。やはりファッション性よりもインテリアとしての完成度を考えないと、家電のデザインはなかなか評価されません。
秋野:
ファッション的なアイテムと、インテリア的なアイテムは違いますね。インテリアは日常的に長く使うものなので、ずっと見ていても嫌にならないことがとても重要です。壊れてしまっても、形が好きだから捨てたくない、取っておきたいというようなものを選んで店に置いていきたいと私は考えています。
エコプロダクトへの注文
秋野:
家中に溢れている大量の家電をどうにかしたいと言われるお客様は多いのですが、デザイナーの立場から何か解決策はありますか?
水田:
個人的には、まず充電器を減らしたいと考えています。製品を買うたびに充電器が増え、リサイクルもできないという状況を、エネループという充電池を中心にして変えていく。それがエネループユニバースの目指すところでもあります。使い切って捨てる生活よりも、繰り返し使う生活のほうが快適でスタイリッシュに見えるような提案を続けていかなければなりません。秋野さんは、家電のエコ度についてどのようにお考えですか?
秋野:
買ってエコならそれでいい、というスタンスですね。環境に配慮した商品はもちろん多く扱いたい半面、それをあえてエコだと謳う必要も感じないので、良いものを自然に取り入れてお客様に提案したいと思っています。エコを本質的に打ち出した家電はまだ少ないし、エコの割には価格が高くてデザイン的にも未熟な製品が多いという不満はあります。
水田:
私も「エネループ=エコ」という図式は過度に押しつけたくないと感じています。環境問題は各人が当然の前提条件として考えることだし、「エコだから買って」とか「エコポイントが付きます」という売り方はちょっと。厳密に言えば合成樹脂はエコじゃないですし。今後のエネループユニバースの製品について、ご要望はありますか?
秋野:
表参道のMoMAショップで見たソーラーチャージャーが気になっていました。あまり量販店では売れていないそうですが(笑)、当店のお客様なら面白がってくださるような予感がしたので、エネループランプの先行展示に合わせて、リビング・モティーフでも取り扱うことにしました。冬にはエネループカイロがギフト用として有力かも。インテリアに落とし込めるような優れたデザインの製品が、エネループユニバースの世界に加わっていくことを期待しています。
水田:
デザインコンシャスな人たちが既存の家電に抱いているイメージを、エネループランプが少しでも変えることができたら嬉しいです。【取材・文/遠藤 建】