映像作家・村田朋泰20年の軌跡。
「心に伝わる」表現について語る。

パペット・アニメーションの新境地を切り拓く。
厳選の7作を公開!

最新作「松が枝を結び」より ©TMC 

東京藝術大学デザイン科在学時からパペット・アニメーション作品を制作してきた村田朋泰監督のキャリアは20年を超える。その間、多くのCMやMVなどのクライアントワークを手がけながら、自らの作品づくりも並行して世に送り出してきた。3/17(土)よりシアター・イメージフォーラムにて上映される「村田朋泰特集 夢の記憶装置」では、最新作を含む過去15年間に制作された珠玉の7作、「木ノ花ノ咲クヤ森」「天地」「松が枝を結び」「朱の路」「白の路」「家族デッキ」「森のレシオ/コウカントリ(NHKプチプチアニメ)」が一挙公開される。

筆者が映像作家・村田朋泰の作品をいちばん最初に目にしたのは、Mr.ChildrenのMV「HERO」だった。登場する人形の情感豊かな瞳が印象的で、発表からすでに15年が経過しているにも関わらず記憶に残っている。

▲Mr.Children 「HERO」 MV作品

今回のインタビューでは村田監督のアニメーション制作の裏側のみならず、クリエイティビティの源になっている監督自身の「記憶」についても聞くことができた。映像作家としてのこだわりやアイデアの在りかを紐解くヒントになると思うので、ぜひ映画鑑賞の前後に読んでもらいたい。

特集上映される作品はすべて作家としての転換点となったもの

ーー今回上映される7作は人形・セットを含めてそれぞれに雰囲気が異なり、村田監督が織りなす多様な表現方法を知ることのできるラインナップだと思います。これらを選んだ基準を教えてください。

学部時代に制作した「睡蓮の人」という作品から変わらず、僕の制作の根底には「今いるこの世とあの世の間」「死者との対話」というテーマがあります。修了制作として発表し、今回上映される「朱の路」は、「睡蓮の人」から出発したテーマのもと娘を失ったピアニストの心の旅を描くロードムービーをつくりたいと思ってできた初期の代表作です。その後<路>シリーズを全4作制作しましたが、Mr.Childrenの「HERO」MVとして知られる「白の路」も自分の作品が世の中で広く知られるようになったターニングポイントでした。

「朱の路」より ©TMC

「白の路」より ©TMC

2011年の震災以降に着想し、10年かけて全5部作完結を構想している<生と死にまつわる記憶の旅>シリーズのうち今回が劇場初公開となる第3部作「松が枝を結び」は、震災で引き裂かれた一卵性双生児の姉妹が主人公のお話です。全5部作の中心になる重要な作品なのでぜひ観てもらいたいと思っています。

「松が枝を結び」より ©TMC

下町の理容店を経営する高田家に起こる不思議な出来事を描いた「家族デッキ」は、それまでの<路>シリーズなどとアプローチを大きく変えた作品です。僕はずっと一人称で語る作品をつくってきましたが、この作品は家族をテーマにしたことで一個人の枠組みから家族や社会まで視野を広げるきっかけを与えてくれました。

「家族デッキ」より ©TMC

「家族デッキ」に登場する理容店は東京・荒川区に実在した「すずらん理容店」をモデルにしています。ふたりのおばあちゃんが経営する80年ほども続いていた理容店でしたが、残念ながら今では駐車場になっています。取り壊し前にすずらん理容店を取材してアニメーションの内装のセットを実物そっくりにつくりました。今はないすずらん理容店がセットになって人形とともに「家族デッキ」の物語を展開している。アニメーションを通してすずらん理容店が確かにあったことを証明できるような、そういった「記憶の装置」として作品が機能していると思っています。

ーー村田監督の作品には「記憶」というテーマも一貫してありますね。村田監督にとっての懐かしい、大切な記憶とはどんなものでしょうか。

地元の日暮里や谷中に流れるゆったりとした時間がとても好きで、20年前に訪れた石垣島や西表島などの八重山諸島に流れていた時間も地元に通ずるものがあり、何度も足を運びました。「朱の路」は西表島や由布島が舞台になっています。若いときは誰しも自分と向き合う時間が必要だと思いますが、僕は特に必要なタイプでした。流行の移り変わりの速い世の中で、地元や沖縄で過ごした時間は、自分のペースで自己の内面と向き合う時間を与えてくれたと感じています。現在の制作姿勢にも通じる大事な記憶です。

自然のなかに人が在る、ということ

ーー今回初公開となる「松の枝を結び」では観る人に3.11の記憶を脳内で「再生」させる映像になっていると思います。震災はご自身のクリエイションに影響を与えていると思いますか?

震災以前と以降ではものづくりに関する意識が変わりました。それまではまさに自分と向き合うというテーマだったので個人的な解釈から作品が生まれていたんですね。それが年齢とともに家族のことや社会のこと、未来に残していきたいものというように、大きな枠組みで考えるようになるという変遷は震災以前にもありました。それが震災以降は創作すること自体の意義を問い直すところまで立ち戻ることになったんです。

その問いに対して自分なりに出した答えが、アニメーションを記憶の装置として機能させること。観る人ひとりひとりに天変地異の脅威や失う悲しみが引き継がれていくことを目指しています。

「天地」より ©TMC

ーー津波のシーンを含め、自然災害が辛い災いであることを伝える一方で自然の営みの一環であることを等しく描こうとしているように感じます。

僕はあらゆるものは等価だという捉え方をしています。震災を善悪ではなく等価として語りたかった。例えば主人公の一卵性の双子の少女たちはもともとひとつだった受精卵がふたつに離れて生まれてきていますね。実は僕自身も一卵性の双子で、弟がいます。同じ遺伝子を持って生まれてくるのに個体としては別で、常に鏡のように存在するという双子の存在は、僕にとっては「もうひとつの世界」に思いを巡らせるきっかけになりました。

作品のなかでは少女たちが喧嘩をしてぶつかり合うシーンがありますが、震災を起こすプレート同士のぶつかり合いも等しいものとして描いています。力の大きさの大小ではなく、そういった摩擦と衝突のなかで自分たちがこの地球に生きているということをアニメーションで見せたいと思っています。

人の心を捉える表現について

「木ノ花ノ咲クヤ森」より ©TMC

ーー村田監督の作品の特徴に、セリフを排除して背景やセットの細やかな描写が物語る、といった表現方法が挙げられます。

地方で自然のなかに身を置くだけで感化されることってたくさんありますよね。僕の作品も同じ考え方でつくっています。人形を取り巻く環境をしっかり見せれば、人形の動きがシンプルでも物語が成立します。セリフが不要なのも同じ理由です。その一方で人形の動きを演出する際には「文楽」の影響を受けています。ところで、パペット・アニメーションにおいて人形に「リアル」な動きを感じる瞬間ってどんなときだと思いますか?

ーー人間そっくりに動くのを見たときでしょうか?

人間のように自然に動こうと心がけているときに生まれるちょっとした「ズレ」もしくは「ぎこちなさ」にこそ、リアルを感じるのだと僕は思っているんです。文楽では3人の人形師がひとつの人形を動かします。それぞれに役割があることでひとりで動かすよりも表現の幅が広がりますが、そのぶんすごく難しい。3人の息の合わせ具合や体調などのコンディションの下、3人がかりで人形の心情を演出します。そのときに「ちょっとしたズレ」が生じるんです。完全に制御できないことから生じるズレが瞬間を強調し、観る人の心にリアルな表現として届く。文楽のそういった虚と実の間を表現しようとするところに感銘を受けています。

僕がつくるアニメーションは人が介入しているからこそ生まれる曖昧な余白を大事にしています。その余白やズレが観客の想像力を刺激することで人形にリアルさが生まれ、人形に投影された心情に人びとは心動かされるんだと思います。

ーーセリフもなく動きも大きくはないにも関わらず、記憶のなかの愛や不在、悲しみといった抽象度の高いテーマがしっかりと伝わってくる村田監督ならではの着眼点ですね。

僕は作品をつくるときに説明的になり過ぎないよう心がけています。人形アニメーションをつくり始めた学部生の頃から「自分のなかの問いに向き合う」というのが基本姿勢でした。大学はデザイン科を専攻したのですが、デザインは発注された仕事があってそれに答えていく対応力を求められるものだと思います。対して自分の作品をつくるというのは「問うこと」だと思っています。その問いを形にしていくこと。

人形アニメーションをつくるうえでは映画の影響が強いです。中学生まではハリウッド的なロッキーとか筋肉系が多かったのですが(笑)、高校生の頃にはタルコフスキーやビクトル・エリセが好きでした。言葉ではなく映像美として語られる映画に惹かれていきました。

ーーセリフを排除したアニメーションの影響は映画からなんですね。

そうですね。「松の枝を結び」を観てくれた人からはユーリ・ノルシュテイン(※アニメーションで知られるロシアの映像作家)の「話の話」と通じるテーマがある、という感想をいただくのですが実は僕「話の話」を観ていなくて(笑)。ただ「話の話」も第二次世界大戦が背景になっている作品だと聞いて、僕の場合は震災から着想を得ていることを考えると通じるものはあるんだと思います。ぜひ観てみたいと思っています。

ーーそんなユーリ・ノルシュテインの作品が2016年から2017年にかけて特集されて話題を集めたシアター・イメージフォーラムにて、とうとう村田監督の特集上映が始まります。

アニメーションを始めて21年目ですが、東京・渋谷のイメージフォーラムを皮切りに地方も巡回するという大規模な映画館上映です。僕自身、映画を真っ暗な映画館で観るのが好きなので、その空間で作品を観てもらえるのがとても楽しみです。きっと何度か繰り返し観ることで前回と違うところを発見したり、いろんな感想をもってもらえる作品だと思っています。

▲「村田朋泰特集 夢の記憶装置」劇場予告版

村田朋泰特集 夢の記憶装置

3/17(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

監督・脚本
村田朋泰
音楽
田戸達英
助成
文化庁文化芸術振興費補助金(「松が枝を結び」)
製作
TMC
配給
ノーム、TMC
公式HP
https://www.tomoyasu.net/special2018