REPORT | コンペ情報
2018.02.16 14:00
去る1月18日、コクヨデザインアワード2017の結果が発表された。ここ数年、同アワードのテーマが「美しい暮らし」(2015年)、「HOW TO LIVE」(2016年)と、単に機能や便利さ、アイデアの切れ味だけではない、人がよりよく生きるための本質的なデザインへの問いかけが続いている。今回の「NEW STORY」ではさらにそれを深め、人々の感性に訴えかけるような、そして新たなジャンルを開拓していくような提案が求められた。
応募総数1,326点の頂点に輝いたのは、大学院生3人のグループ「にょっき」による「食べようぐ」。オフィスにおけるおやつの価値を問い直し、目的に応じて使い分ける文房具のようにとらえた作品だ。オフィスのあり方や働き方が大きく変化している昨今、よりよく働くためのツールを「食」という領域から提案するという、視点の意外性と今後の可能性が評価された。
「食べようぐ」に関する審査員たちのコメントは次のとおり;
「既存のジャンルにとらわれず、むしろミックスされていることがおもしろい」(植原亮輔/KIGI代表、アートディレクター・クリエイティブディレクター)
「ステーショナリーの基本的な考え方があったうえでのアイデアのジャンプがよかった」(川村真司/PARTY NY代表、エグゼクティブクリエイティブディレクター)
「快適に働くためのものと考えれば、食べ物だって立派なステーショナリーだと言える。タブーのようで実は王道」(佐藤オオキ/nendo代表、デザイナー)
「文房具がものを動かすツールだとしたら、この作品は人を動かすツールとしての存在感があった」(鈴木康広/アーティスト)
「商品化の際には成分や材料にこだわって、健康によいものをつくってくれたら個人的にも利用したい」(渡邉良重/KIGI、アートディレクター・デザイナー)
具象的で情緒を感じさせる作品も高く評価
例年コンセプト重視のシンプルな作品が受賞することが多いなか、今回の最終審査ではアイデアや機能以上に、人の感性に訴える詩的な作品も注目された。例えば優秀賞に選ばれた「時の舟」は置き時計であるにもかかわらず、正確な時間を読むことはできない。しかし、忙しい日々のなかで、ヨットのオブジェがゆっくりと回転し時の流れを感じさせる、というストーリーが審査員の心をとらえた。
また、ユニット「the authentic design」によるふたつのファイナリスト作品も、自身の個人的な体験に基づいた心象的なプレゼンテーションや質の高いプロトタイプが評価された。一方で、それが、歯ブラシやサインペンといったアウトプットの形の根拠や機能的価値を打ち出しきれず、受賞には至らなかった。
評価が分かれ、審査の難しさも
「NEW STORY」というテーマの幅が広く、さまざまな側面からとらえることができるために、今回は、審査のなかで一度ふるいにかけて落ちたものの、別の視点で再評価される作品もあった。
受賞はならなかったが、ユニット「New Jersey」による「にっきのばんそうこう」もそのひとつ。日記用のシールで、辛いことや悲しいことを記した“傷”の部分に貼り付けて自分の心と向き合うためのツールだ。審査では、「テーマに対する答えになっているか」「人が使いたいと思うだろうか」といった疑問が出るなか、「心理療法的な可能性もあるのでは」という意見が議論の風向きを変える場面も見られた。
授賞式および審査員によるトークイベントが行われた青山スパイラルホールでは、エントランスにファイナリスト10作品のプロトタイプが展示され、初の試みとして来場者による一般投票が行われた。その結果、「陽だまりノート」が最多票を得た。実は、最終審査で「シンプルなアイデアながら個々の物語や記憶をイメージさせる」と評価されたものの惜しくも受賞には至らなかった作品だ。この一般投票を通じて来場者自身が作品を評価する視点をもち、審査の多様さや深さを理解する機会となったことだろう。
新たな一章への扉
ファイナリスト全体を通して、「使う人によって使い方が変わる作品が増えた印象だ」と語るのは、5回目の審査を務めた鈴木康広だ。「4年前のアワードではそういった作品が受賞することはなかった。デザインの方法やプロセスが変化しつつあるという機運を感じる」。植原亮輔も、「ユーザーの想像に委ねる余白におもしろさを感じる作品があった」と振り返る。一方で、「そうしたあいまいさを伴う感性の提案に対して、審査する側もより深く的確に読み解くことが求められるだろう」と語った。
一方、コクヨデザインアワードはアート作品のコンペではないため、商品化する対象としてのバランスも大切だ。そして、そのバランスにおいて最も優れていたのが「食べようぐ」だったというわけである。「食品はタブーではないかと心配だった」と打ち明ける応募者にとって「イチかバチか」の賭けだったが、「受賞作は商品化する」ことをモットーとするコクヨにとっても相当な覚悟で選んだに違いない。「15回の節目を迎えて、コクヨ自身も変わりたい」(黒田英邦社長)と宣言した同社にとって、今回のテーマ「NEW STORY」は自身に課したものでもあったのかもしれない。新たな一章への扉を開くような、商品化の実現に期待したい。
コクヨデザインアワード2017の最終審査レポートなど詳細はこちらをご覧ください。