印刷工場見学レポート
デザイン誌「AXIS」がかたちになる場所

日々の生活のなかで皆さんはどのように「印刷」に関わっているでしょうか。

お正月の年賀状ひとつをとっても、店頭やオンラインで完成品を注文する人もいれば、自らデザインを行なって自宅のプリンタで出力する人、企業の印刷サービスを活用して素材や手法にこだわる人もいるなど、印刷に対する意識や取り組み方にはさまざまなものがあります。

就職活動や営業活動に持参するポートフォリオや名刺を作るために、ブツ撮りやレイアウトデザイン、素材と印刷手法の選定、製本といった一連の製作工程に試行錯誤を繰り返した経験のある人が、読者の皆さんのなかにもいらっしゃるかもしれません。

家庭用プリンターの進化や印刷サービスの発展とともに、個人がアクセスできる印刷表現はより幅広く、身近なものとなりました。一方で商業誌には、デザインから製本まで諸工程のプロフェッショナルたちが連携することで実現されるクオリティと、大量生産をまかなうシステムやスケールが備わった印刷表現の世界があります。今回は一個人の創作活動という枠を超えた、企業活動としての印刷に取り組む現場を紹介します。

伺った先はこちら、株式会社大丸グラフィックスさん本社/工場(岐阜県岐阜市)です。

株式会社大丸グラフィックス
1953年(昭和28年)創業の印刷会社。書籍や雑誌、企業カタログといった印刷物の制作、Webコンテンツ制作、データベースシステム構築等幅広い事業を手がけ、確かな品質、技術開発力、撮影から製本までの一貫生産体制を確立している。デザイン誌「AXIS」の印刷・製本を先のリニューアル号(187号)より担当。

▲社屋のエントランス近くに飾られている創業当時の看板

▲大丸社が手がける印刷事業のワークフロー図(会社HPより)

巨大な印刷機

初めに案内いただいた現場では巨大なカラーオフセット印刷機(※上記ワークフロー図のGにあたる部分)が大きな音を鳴らして稼動していました。大きなロールから送られる紙が正確に切り分けられ、CMYK4色両面印刷までが一貫して施される仕組み、その全体像から細かな部品の機構に至るまで、圧巻の構造設計にしばらく取り憑かれます。

▲大丸社に導入されているカラーオフセット印刷機

▲頑丈な鉄の支柱に通された巨大なロール紙。ロールの取り替え作業も大掛かりなものに。

▲ロールから切り出された紙が正確にマシン内を移動する。

ロールから送られてくる紙がカッティングされたのちに通るマシンは、それぞれにCMYKの4色がK→C→M→Yの順番に割り当てられており、マシンを経るごとに紙に色が重ねられ、最後には両面印刷のフルカラー版となって出力されます。

▲C(シアン)・M(マゼンダ)・Y(イエロー)・K(キープレート/ブラック)のインキ


▲最新号特集ページ中の一コマ。一色ずつ重ねられていく。


▲印刷を終えた紙面をデジタルデータと照らし合わせながら入念にチェックする工程

印刷を終えた紙面は余白のカッティングを経て、製本工程に入ります。


▲専用のカッティングマシーンで次から次へと切り分けられていく紙面のブロック

▲製本工程ラインの様子

一貫生産体制のためのさまざまな設備

ソフトウェアからハードウェアまで実に多くの設備がある大丸グラフィックスさん。印刷機のみならず、インキ製造のマシン、写真スタジオ、高精細スキャナなどまで、幅広い業務を支える環境が整えられています。

▲写真スタジオ。カメラ周りの機材のみならず、セットのための家具もたくさん用意されている。

こちらは特色(CMYKでは対応できない色)インキの製造機。コンピュータで指定した配合率に則って、圧力が加えられた缶から出たインキが調合されます。攪拌作業は人の手によって仕上げられる、職人技であるそうです。

▲特色インキ製造機

新たに記録することができない貴重な美術品や自然物などを収めた古くから残る貴重なアナログメディアを、高精細にデジタル化し、それを再度アナログメディアとして生まれ変わらせるといったアーカイヴとリマスターの取り組みもまた印刷会社が手がける領域となっています。一見見慣れぬこちらの筒状のマシンは、一般的なフラッドベッドスキャナとは異なる、より高精細なスキャニングを可能とするドラムスキャナと呼ばれるものでした。筒に貼り付けられた印画紙やポジフィルムを回転させながら点でデータを採取し合成をすることで、高精度の画像データへの変換を可能としています。


▲高精細スキャニングに使用されるドラムスキャナ。案内はこちら

デザイン誌「AXIS」では校了に至るまで毎号3度の色校正を出し、色味調整をギリギリまで行いながら、雑誌を世に送り出しています。外部のライター、写真家、レタッチャー、社内のデザイナー、編集者、広告主様、取材先の皆様、そして大丸グラフィックスさんといった、実に多くのプロフェッショナルが関わり合いながら雑誌というプロダクトの磨き込みに取り組んでいます。編集部として改めて社外のパートナー様、その現場を拝見できたことは非常に勉強になりました。

今回の訪問中に刷られていた本誌188号|特集「場の未来」は、本日発売です。店頭でお見かけいただいた際は、その背景に関わる人間や工程をひとたびでも思い出していただければ幸いです。


AXIS vol.188 2017年07月01日 発売
特集|場の未来
人という存在を中心に置き、さまざまな結び目となってモノや情報、社会との新たな関係性を紡いでいくことを見据えた最新のデザインから、未来の場のあり方とそのヒントを探る。
定価 税込1,800円

▲デザイン誌「AXIS」/ Vol.188 / 2017年07月01日発売 / 特集「場の未来」