パトリック・ブラン (植物学者、アーティスト)
「環境に合わせて適材適所に植物を用いる」

2016年11月28日〜12月3日に開催された香港の「ビジネス・オブ・デザインウィーク(BODW)」(香港デザインセンター主催)で講演を行った約60人のクリエイターのなかからピックアップしてダイジェストで紹介する。

パトリック・ブラン氏は、1988年に人工土壌による緑化システム「ベジタル・ウォール(Vegetal Wall)」を発明し、建築の壁面などに植栽を施す「バーティカル・ガーデン(垂直庭園)」のパイオニアとして知られている。

台北コンサートホールの「GREEN SYMPHONY」(2007年)。

「30年前にパリの博物館の依頼で垂直庭園をつくったのが最初。その8年後、南フランスのガーデンフェスティバルに出展した作品がきっかけとなり、それから建築家と一緒にやるようになった。建築の屋内や壁面に庭園をインストールするプロジェクトが増えていったんだ」とブラン氏。現在までに、北南米、ヨーロッパ、中東、アジア、日本など世界中で約300ものプロジェクトを手がけてきた。

スロバキアの首都、ブラチスラヴァにあるカフェのプロジェクト。2010年完成。

ヘルツォーク&ド・ムーロン、SANAA、安藤忠雄といった著名建築家との仕事も多く、日本では東京や金沢、山口などで実績がある。特に同じフランス人のジャン・ヌーベル氏とは12年以上にもわたって協働しており、2015年にはクアラルンプールで高さ200メートルもの垂直庭園を完成させた。またヌーベル氏がマスタープランを担当する中国・青島の都市開発プロジェクトでは、敷地内に15の垂直庭園を点在させる計画が進んでいるそうだ。

ジャン・ヌーベル設計の「LE NOUVEL」(クアラルンプール)。8つのファサードを蔓性の植物でカバーした。

垂直庭園の引き合いが多い背景には、建築界のトレンドもあるが、アーティストであると同時に植物学者でもあるブラン氏の豊富な知識と経験が買われているということだろう。「30年前の垂直庭園が今なおよい状態で生育している」と同氏。おびただしい数のプロジェクトを紹介しながら、「世界の気候や環境の違いに合わせて、適切な植物を正しい場所に配置することが重要だ」と語る。

パリの集合住宅「L’Oasis d’ Aboukir」。写真は2014年に撮影されたもの。

「私は2,000種以上もの植物のことがわかる。1つのプロジェクトでローカルの品種を中心に50〜90種くらいの植物を用いるが、その環境のなかで品種がどう振る舞うかを考える。風が強い、虫が寄りやすい、屋内が暗すぎる、などさまざまな制約や条件が考えられるが、品種の多様性によってお互いの弱いところを補完することができる」(ブラン氏)。

「L’Oasis d’ Aboukir」のための品種のラインナップ。

「L’Oasis d’ Aboukir」のためのスケッチ。

そんなブラン氏のパリにあるオフィス兼住居はまさにジャングルのようだ。床から天井まで植物で覆われた室内では鳥やトカゲ、魚や蛙などが飼育されている。講演後のインタビューで休日の予定について聞かれたブラン氏は、「来週、クアラルンプールでの仕事を終わらせたらその足でスマトラ島に行く。私が見たことのない植物がそこにあるんだ。小さな植物だが、それを見るのがずっと夢だったのでとても楽しみ」と少年のように笑いながら答えた。(取材・文/今村玲子)

ブラン氏が自宅を紹介すると会場がどよめいた。