Ambientecが4名のデザイナーによる新作コレクションを発表
テーマは「Emotion is Mobile.」

ポータブル照明を手がける Ambientec(アンビエンテック)は、ミラノサローネ国際家具見本市の期間、隔年で開催されている照明見本市 エウロルーチェに出展。「Emotion is Mobile.」をテーマに掲げ、これまでに同ブランドとコラボレーションを行ってきた田村奈穂、松山祥樹、小関隆一、吉添裕人ら4名のデザイナーによる新作コレクションを発表した。

「Vosco」 designed by Nao Tamura

「Vosco」は、用途やシーンに合わせて中心の木の部分を大・中・小の3つのサイズに切り替えられるほか、ウォールナット、メープル、オークの3種類の木材から選ぶことができる。

田村奈穂が手がけた「Vosco」は、「手に持って動かす」というモビリティ性を大切に考え、「暮らしのなかで本当に役に立つ光を灯したい」という思いのもとに生まれた。そのデザインは、昔から日々の暮らしのなかで使われてきた道具にインスピレーションを得ている。こうした道具は、ひとつの用途に忠実な形を備え、使いつづけることで手になじんでいく。時間の経過とともに風合いが深まり、使い手とのあいだに愛着が生まれていく。「Vosco」は、そんな飾ることのない道具の佇まいを湛えている。

また、照明器具として光の質にもこだわっている。新たに開発したフレネルレンズにより、やわらかで均一な光を実現。ガラスや光沢のある石の上に置いてもLED特有の粒が見えず、眩しさを抑えながら、より自然な光を提供する。フル充電の連続点灯時間は最長150時間。タッチセンサーに触れるだけで、ろうそくの炎に近い温かみのある光から食事や読書に適した2500Kの明るさまで、5段階で調整が可能だ。

ベース素材に使用されているのは、燃料材や廃材として扱われることの多い、曲がった材や節のある木材だ。森で時間をかけて育まれた木々は、それぞれに異なる表情をもち、時間とともに風合いを深めていく「生きた素材」と考える。これまで十分に活用されてこなかった木材に新たな価値を与え、「光を灯す道具」として暮らしに寄り添いながら、長く愛されるものへと生まれ変わらせたい。森で生まれた木が日々の営みのなかで誰かの手に渡され、そっと光を灯す存在になるようにという願いが「Vosco」には込められている。

「Barcarolle」 designed by Yoshiki Matsuyama

松山祥樹は、自然のなかにある生命感をモチーフにした前作「Cachalot」に続く新たなシリーズとして、人の暮らしや文化が歴史のなかでつくりあげてきた要素から着想を得た「Barcarolle」をデザイン。古くからヨーロッパに残る美しい街灯や歴史的な建築、そこにある階段や柱などの装飾性を再解釈し、クラシックとモダンがひとつに調和したようなポータブルランプが生まれた。

「Barcarolle」シリーズ。中世の静物画に描かれたような静謐な存在感と温かな光は、現代の暮らしに心地よいアクセントを添えてくれる。 Styling by Serenella Parri Photo by Stefania Giorgi

「Barcarolle 60」
半球型のプリミティブなガラスシェードは、光源からの光と周囲の空間からの光を受けて、静かで温かみのある光のシルエットを浮かび上がらせる。 Styling by Serenella Parri Photo by Stefania Giorgi

「Barcarolle 37」
プレート型のガラスシェードに表れるゆるやかな揺らぎは、穏やかな水面のような光の表情を見せ、船乗りの唄(Barcarolle)に由来する世界観を感じさせる。 Styling by Serenella Parri Photo by Stefania Giorgi

「Barcarolle」という名称は、「舟唄」を意味するピアノのための小曲に由来し、さらに遡るとヴェネツィアのゴンドラ乗りの唄に行き着く。そのヴェネツィアの運河に映る光の情景をモチーフとして、前作の光源を受け継ぎつつ、新たな光のモードが追加された。温度が感じられるような温かな光は、複数並べることで、夕暮れの水面に映る街の灯りの煌めきのような情緒的な景色をつくり出すことができる。

「Barcarolle 265, 227, 183, 137」
垂直に伸びる凛とした灯りと、4つの高さのバリエーションによって、詩的な雰囲気や華やかな雰囲気など、さまざまな空間を演出する。 Styling by Serenella Parri Photo by Stefania Giorgi

静かな音楽が流れるなか、テーブルのワインや熱いコーヒーを味わう。夜の時間に小さな灯りを囲み、親しい友人や家族、恋人といつまでも語らう。あるいは、ひとりゆっくりと本や音楽の世界に浸りながら、眠りが訪れるのを待つ。「Barcarolle」は、こうした日常のささやかで美しい時間を演出してくれる。

「STILL」 designed by Ryuichi Kozeki

「Still quad」色:アンバー Photo by HIroshi Iwasaki

「Still」は、2015年に発表されたロングセラーランプ「Xtal」の兄弟ともいえるモデルである。前作につづき小関隆一がデザインを手がけた。ガラスの積層による光や像の変化、カラーガラス(アンバー、グレイ、ブラウン)の採用など、新たな要素に挑戦した作品だ。

「Still quad」色:グレイ Photo by HIroshi Iwasaki

重厚なカットガラスが生み出す印象的な煌めきが特徴的な前作「Xtal」は、従来の照明器具やキャンドルとも異なるLEDポータブルランプの新たな方向性を提案するものであった。また、その機構デザインは合理性と普遍性を兼ね備え、シンプルさゆえの汎用性により、表現の可能性をまだ残していた。

新作となる「Still」は、この合理的な機構デザインを一切変えることなく、フォルムはシンプリシティを際立たせたクアッドとオーブの2種類を展開。華やかさとは一線を画す静けさや、光とガラスの質感による奥行きのある豊かな表情を楽しむことができる。

「Still orb」色:ブラウン Photo by HIroshi Iwasaki

機能や利便性ではなく、「場の空気、雰囲気をつくる」照明として構想された「Still」。艶やかでありながらも落ち着きや静寂さも感じられる、成熟した灯りに仕上げられている。

「hymn pro」 designed by Hiroto Yoshizoe

火の揺らぎを現代的に再解釈した「hymn」は、吉添裕人が2019年にプロトタイプを手がけ、2021年にAmbientecが製品化した照明である。今回はさらなる進化を遂げ、照明の可能性を広げる「hymn pro」として結実した。

「hymn pro」Photo by Shunsuke Watanabe

「hymn pro」の光は、風にそっと揺れる火のように空間の気配に呼応しながら繊細に変化することで、見る者に静かな安心感を与える。これを可能にしているのが、特殊な光学レンズと振り子を統合したペンデュラムレンズであり、3本のアームとリング状のウエイトによってその精度が極限まで高められた。成形ガラスが採用されたガラスシェードには奥行きと重厚感が生まれ、温かみのある光と写り込んだ周囲の環境が融合することで、空間との関係性をつむぐ存在となっている。ペンデュラムレンズ、ガラスシェード、ベースが一体化した「hymn pro」は、ポータブルでありながら空間に静かに佇むクラシカルな美しさと、削ぎ落とされたミニマルな存在感を備えている。

置く場所、照らし方、持ち運ぶ動作さえも光の一部となり、空間に新たな詩的体験をもたらしてくれる。

「hymn pro」Photo by Shunsuke Watanabe

「hymn pro」Photo by Shunsuke Watanabe