REPORT | ファッション
2016.08.12 20:10
英国のファッションデザイナー、ポール・スミス氏の展覧会が上野の森美術館で開催されている。メインとなる展示は服というよりは、ポール・スミス氏が自身の「頭のなか」を紹介してくれるような内容だ。
クラシカルなジャケットの裏地は鮮やかな花柄。ピンクやブルーの糸で施されたステッチ。「ポール・スミス」は遊び心のある紳士淑女のためのファッションブランドだ。また、世界各国のさまざまなメーカーとコラボレーションしてきたことでも知られる。本展は、伝統や誠実なものづくりを大切にしながら、そこに自由な遊び心をふんだんに盛り込んで独自の世界観をつくり出すスミス氏のイマジネーションのリソースに迫る展覧会である。
会場に足を踏み入れると、氏が10歳から集めているというアート・コレクションに目を見張る。主に写真だが、ウォーホルやホックニーの絵画やイラスト、日本人の子どもが書いた絵手紙のようなものまで、あらゆるビジュアルが壁を埋め尽くす。
▲ ポール・スミス氏のアート・コレクション。英国オフィスにあるほんの一部でしかない
続いて、オフィスやスタジオ、初めてのショップやショールームの再現、氏の脳内を表現したインスタレーションなど、デザイナーがどんなふうに活動を始め、何を大切にしてきたかを伝える。
▲ 1970年にオープンした1号店はわずか3メートル四方。金曜と土曜だけ店を開け、それ以外は別の仕事をしてお金を稼いだ
▲ 初めてのショールームはパリのホテルのベッドルーム。最終日の終わりに現れたたった1人の客から注文が取れ、ビジネスが始まった
おもちゃや古物が雑多に散らばるオフィスに目を凝らすも、彼が「好きなもの」を一言で表すことはできない。氏にとってジャンルや分類などは意味がなく、「アイデアはどこからでも湧いてきます。どんなものからでもインスピレーションを得ることができるのです」(会場パネル)というように、世界のすべてが発想源となっている。
▲ スミス氏のオフィスを再現。「オフィスは私の頭の中そのものです。ここに集められたすべてのものたちから、あるアイデアが形作られ、新しいコレクションや新しいショップのデザインのインスピレーションになっていくのです」(会場パネル)
▲ スタジオの再現。ポール・スミスの代名詞であるストライプ柄はすべてコヴェント・ガーデンのデザインスタジオで生まれる。厚紙に色糸を少しずつ巻きつけてストライプをつくるという。
そのボーダーレスな精神は多彩な企業との協働にも生かされている。スミス氏がコラボレーションに積極的なのは、「刺激的でチャレンジングな試み」だから。ローバー「MINI」をはじめ、オートバイ、自転車、カメラ、ラグなどさまざま。ポール・スミスのロゴは目に入らなくとも、ビビッドな色使いや特徴的なストライプではっきりそれとわかる。
▲ ポール・スミスとのコラボレーションの数々
▲ 会場の最後にポール・スミスの最新コレクションをはじめとする厳選された服が並ぶ
ポール・スミス氏はアマチュアカメラマンであった父親の影響で11歳から写真を撮り続けており、ファインダーを通して世界を平等に眺める癖が身についているのかもしれない。既成概念にとらわれないオープンな姿勢、クリエイティブを心の底から楽しんでいる様子が会場の隅々から伝わってくる楽しい展覧会だ。(文・写真/今村玲子)
ポール・スミス展 HELLO MY NAME IS PAUL SMITH
会期 2016年7月27日(水)~8月23日(火)
会場 上野の森美術館(東京都台東区)
今村玲子/アート・デザインライター。出版社勤務を経て、2005年よりフリーランスとしてデザインとアートに関する執筆活動を開始。現在『AXIS』などに寄稿中。趣味はギャラリー巡り。