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2025.03.28 12:00
Photos by Ayano Maeshiro
2025年3月24日(月)、本田技研工業の「Honda Design」ウェブサイトが大幅に刷新された。バイク・クルマ・パワープロダクツといったHonda Designが手がける製品群の多様さにあらためて触れることができるだけではなく、それらの共存を体現したウェブサイトのデザインからは、新しい表現に挑戦していく同社の姿勢が感じられる。
このウェブサイトリニューアルプロジェクトを、約3カ月という短期間で走り抜けたのは、同社の各開発チームと横断的に関わる「Design Administration」に所属する、若手デザイナーのふたり。入社2年目ながら中心となってプロジェクトを進めてきた永井雅生と工藤外四に、「Honda Designらしさ」を問い直すことになった本プロジェクトの裏側について聞いた。
プロトタイプを起点としたウェブサイトリニューアルプロジェクト
-今回おふたりがウェブサイトのリニューアルを担当された経緯をお聞かせください。
永井 僕が所属しているスタジオでは、バイク・クルマ・パワープロダクツなどのプロダクトデザイン以外のデザインを担当しているんですが、以前からウェブデザインに興味があり、上司にもそのことを伝えていたことが、このプロジェクトにアサインされた大きな理由だと思います。プロジェクトがはじまる半年ほど前、新入社員を紹介するランディングページをデザインした際には、社内向けのページだったためできることに限りがあったので、表現の幅を広げることができる、新たな挑戦だと捉えました。
永井雅生(ながい・まさき)。2023年入社。普段はグラフィックデザインをメインで担当している。
実は当初、プロジェクトにアサインされたのは僕ひとりで、工藤さんには、社内プレゼンに向けて準備を進めるなかでこっそりと参加してもらった経緯があります。部署の上長や社内広報の方々が参加するプレゼンだったので、ビジュアルを用意するだけではなく、実際に体験できるプロトタイプをつくった方がスムーズに進められそうだなと、ウェブの知識がある工藤さんに声をかけ、協力をお願いしたんです。
-工藤さんは今回のプロジェクトに声をかけられた際にどう感じましたか?
工藤 「ついに来た!」という気持ちでした。前職ではコンピューテーショナルデザインやウェブアプリの開発に携わっており、そうした経験を生かせるプロジェクトに関われる機会を期待していたので、声をかけてもらえて嬉しかったですね。
永井 かなり無茶振りではあったと思うので、引き受けていただいてありがたかったですね。
-最初はどのような内容の依頼だったのでしょうか?
工藤 はじめは「ウェブ制作の進め方ってこれであってますか?」といった相談をもらい、「あってると思いますよ」みたいな会話からスタートしました。そのなかで、仕上がりのイメージとなるビジュアルを見せてもらっていたので、ウェブデザインに必要なインタラクションなどの表現を取り入れたプロトタイプをFigmaでつくり、永井さんに送ったところ、「ちょっと話があります」と(笑)。
工藤外四(くどう・がいし)。2023年入社。前職は建築事務所でアプリケーション開発を手がけていた。
永井 工藤さんのおかげでほぼ完成のイメージに近いプロトタイプをつくることができ、プレゼンの時に響いていたのはまさにそこでした。広報の方々からは「触ってみたい!」とおっしゃっていただけましたし、「まさしく刷新されてるね!」と、こちらの提案をすんなり受け止めてもらえたと思います。
ちなみに、プレゼンが終わった後、「これって永井ひとりじゃできないよね?」と上司に言われ、「実は…」とお話ししたところ、正式に工藤さんに参加してもらえることが決まりました。
Honda Designを表現する「動き・一貫性・調和」
-工藤さんに声をかける以前、ウェブサイトの方向性はどのように考えていたのでしょうか?
永井 Honda Designのウェブサイトをつくるうえでは、やっぱりHonda Designの強みや「らしさ」にちゃんと向き合う必要があるなと感じ、ホンダに関する書籍やブランドガイドラインを読み、「Honda Designらしさってなんだと思いますか?」といった質問を同期や先輩にぶつけていったんですね。その結果、バイク・クルマ・パワープロダクツといった幅広い製品の中に、細部にまでこだわりを持つ、まさにホンダが受け継いできた「人間中心」の DNAが入っているところが特徴なのかなと感じたんです。ホンダのように大規模な企業がここまで幅広いプロダクトを手がけているのは大きな強みだと思うので、ウェブサイトのデザインコンセプトを「2・4・PP(=二輪・四輪・パワープロダクツ)の共存」にすることにしました。
さらに、このデザインコンセプトをウェブサイトのデザインに落とし込んでいくうえで、ホンダの企業理念やブランドガイドラインの中からピックアップした、「動き・一貫性・調和」を3つのキーワードに掲げました。
まず「動き」とは、挑戦と進化を絶えず追い求めるホンダの姿勢であり、ウェブにおいては視覚的な動きで表現しようと考えました。さらに、多様なプロダクトを精緻にレイアウトすることで「一貫性」を表現し、フェードアウトや画面に溶け込んでいくようなエフェクトを使うことで、ウェブサイト上で多様なプロダクトが「調和」するようにデザインしようと。なかでも、製品それぞれのカラーや魅力が感じられるサイトになることを意識しました。
リニューアルに向けたデザインコンセプトとキーワード。
-プレゼンの時点ではどのようなデザインを提案されたんですか?
永井 プレゼンの際には、リニューアル以前のサイトのレイアウトを綺麗に整えた割と無難な案と、動きのある、攻めた案の両方を見てもらったんですが、プロトタイプを触ってもらえたことで、満場一致で後者に決まりました。これから本格的にウェブに取り組んでいく僕たちとしては、クリエイティブ業界のような、今っぽくさまざまな表現にもチャレンジしてみたいなと思ったんです。プロトタイプが必要だと考えたのは、「同じデザイン業界のなかでもしっかり存在感を出せるウェブサイトを目指すべき」といった感覚を、プレゼンで伝えたかったからでもあります。
-工藤さんは、永井さんからこの方向性について聞いた時にどのように感じましたか?
工藤 率直にいいなと感じる一方で、大企業のサイトでは、動きの少ないどっしりとした感じをあえて出しているんじゃないかなとも思いました。トレンドを取り入れたスタイルのサイトの場合、逆に時代遅れになるのも早いのかなと。
永井 そこはかなり議論しましたよね。派手なデザインにしすぎると、一過性の流行りを追っただけの印象になりかねないですし、かといってシンプルにしすぎると、刷新感が無く地味な見え方のサイトになってしまう。なので、最先端の表現を取り入れながら、大企業としての安定感も出せるような、ちょうどいいバランスを狙うことができれば、あまり世の中にはないサイトになるんじゃないかなと考えたんです。はじめて訪れた人も「なんだこれ、面白いな」と思ってもらえるような表現を目指しつつ、知りたい情報に早く辿り着けて、リピートユーザーがしっかりHonda Designのことを深掘りができるような工夫を心がけました。
直感的でビジュアル重視な永井のアイデアを、工藤が実現可能なかたちに落とし込む。両者の関係はバランスが取れているように思える。
“尖った”ウェブデザインから生まれる変化への期待
-プレゼンにて無事に「攻めた案」に決まり、制作はどのように進めていったのでしょうか?
工藤 ソフトウェア開発ではよく行われていることですが、ウェブデザインの具体的な表現について議論するうえでの判断軸が欲しいなと思い、プライマリーユーザーやサブユーザーをつくり、あらためてこのウェブサイトをどんな人に届けたいのかを考えていきました。
永井 僕がビジュアル重視で動き出していたので、制作会社さんにコーディングをお願いする前に判断軸となる言葉を決め、ワイヤーフレームやサイトマップなどに落とし込んでいきました。そこで、あらためてデザインに関心のあるクリエイティブ層をメインターゲットに設定し、現在ホンダのウェブサイト内にあるさまざまな種類のページの中で、もっとも直感的にビジュアルで楽しめる場所にしたいと考えました。
リニューアルした「Honda Design」のトップページ。
-以前とはがらりと印象の変わる、先進的なデザインのサイトになりましたね。制作を進めていくなかでの社内の反応はいかがでしたか?
永井 制作の途中段階を見せた先輩からは、「別にいまのサイトも親しみがあって好きだけどね」と、ちょっと冗談っぽく言われることもありましたね。「なんだか格好つけている感じがしない?」とか。
工藤 それは僕も言われましたね。
永井 僕は褒め言葉だと捉えているんですが(笑)。たしかに、多くの方がHonda Designに抱いているのは、尖ったデザインというより、親しみやすさや温かみのあるイメージだと思います。それはホンダが「人間中心」の思想を掲げているからこそだからだと思いますし、細部にこだわり、使いやすさを追求しているからこそ生まれている親しみやすさは、Honda Designに共通する要素だと感じています。
一方で、ホンダとしてこれまでにない表現にも挑戦してみたいという思いもありました。いまはデザイン性の高い製品を手がける企業が力を伸ばしていっている時代だと思うので、今回のウェブサイトリニューアルをきっかけに、「こんな表現もアリなんだな」とか、「ちょっと面白いかも」みたいに思ってもらえるきっかけになったらいいなと思っています。
「動き・一貫性・調和」を意識したページレイアウト。
「Honda Designらしさとは?」を問い直す、新しい変化のはじまり
-あらためて、今回のプロジェクトを振り返ってみていかがですか?
永井 今回のプロジェクトは、あらためてHonda Design全体を俯瞰して考える機会にもなり、ブランドとしての”核”に触れているような感覚がありました。一方で、「Honda Designらしさって何だろう?」という問いに対して、まだ社内に明確な答えがないことにも気づかされたんです。だからこそ、今回のウェブサイトリニューアルを機に、もう一度自分たちのデザインを見つめ直していくタイミングなんじゃないかなと感じています。
工藤 ルールベースでビジュアルを組み直していくなかで、どうしてもルールから数ピクセルずらさなければ表現できない部分がありました。ほんの少し調整すればルールとして整えることもできたんですが、今回はそのズレをそのままに、オリジナルの表現を忠実に再現しています。 こうした感覚や判断が、あとから「らしさ」として積み重なっていくのかもしれません。個人的に興味深い気づきでした。
現在は、そういった制作を通して得た気づきもふまえながら、デザインレギュレーションや運用ルールを整理し、ドキュメント化を進めています。社内に眠っている知見やクリエイションを、仕組みとしてうまくつなぎ直していければ、より豊かな情報共有やコラボレーションが生まれていくはずです。
-ウェブサイトのリニューアルをきっかけに、「Honda Designらしさ」をつくる活動の機運が高まるといいですね。
永井 まさにいま、そういった取り組みができないかと社内で話しているところです。ホンダの多様なアウトプットを束ねるウェブサイトという身近な対外発信メディアだからこそ、そういった動きが生まれるのはいいことだと思います。これまでは、対外的なブランディングに対する意識が社内では限定的だったかもしれません。今後は、そうした意識の醸成を後押しできるような取り組みを続けていきたいと考えています。
Honda Designのブランド力は、個々のプロダクトの魅力があってこそ高まっていくものだと思いますし、Honda Designのメンバーはみんな、「いい商品を届けたい」という思いを持って日々、取り組んでいます。これからは、そうした想いやプロセスが少しでも伝わるように、商品のスケッチやビジュアルもウェブサイト上で発信していけたらと考えています。変化し続ける僕たちの姿を、そこから感じ取ってもらえたら嬉しいです。
ウェブサイトリニューアルをきっかけに若手メンバーから変化の兆しが生まれようとしている。