ディエチ・コルソ・コモで開催中のアンドレア・ブランジ展
「ジュエリーのない文明は存在しなかった」

大規模なリニューアルが進むミラノのセレクトショップ「ディエチ・コルソ・コモ(10 CORSO COMO)」。そのギャラリースペースでは約1年前に亡くなったイタリアの巨匠、アンドレア・ブランジを讃える展覧会「ジュエリーのない文明は存在しなかった」が2月16日まで開かれている。小規模ながらジュエリーから照明、家具まで彼の作品を幅広く知ることのできる、見応えのある美しい内容だ。

会場は2階のギャラリースペース。静謐な空間でひとつひとつの作品をじっくりと鑑賞することができる。キュレーターを務めたのはアレッシオ・デ・ナヴァスケス。©10 Corso Como(写真すべて)

建築家、デザイナーとして多大な功績をイタリアデザイン界に残したアンドレア・ブランジ。デザイングループ「アーキズーム」を牽引し、都市計画、教育、文化振興などの分野でも活躍した彼が2023年末に亡くなってから約1年が経った。

展覧会のタイトルは、「ジュエリーのない文明は存在しなかった」。ブランジはかつて「都市や建築のない社会があったとしても、ジュエリーのない社会は存在しなかった。なぜなら、ジュエリーは何よりも、人間の精巧さの明白なしるしであり、宇宙の法則における秘密の秩序を探求するための象徴と言えるからだ」と語っていたという。

展示の中心となるのは、ジュエリー。なかでも通常ジュエリーと聞いて誰もが思い浮かべる指輪やネックレスにとどまらず、ゴールドやシルバー製のヘッドピースといった身につけるオブジェに目を奪われた。1990年代後半にベルギーで制作され、1998年にゲント・デザイン・ミュージアムの回顧展で披露されたジュエリー「Silver & Gold」、シルバーと白樺を組み合わせたティーセットなどのオブジェ「Silver & Wood」のシリーズにも光を当てる。

植物をモチーフにしたジュエリー「Silver & Gold」。ブランジの展覧会を多く開いたベルギーのギャラリー「カーサ・アルヘンタウラム(Casa Argentaurum)」の創設者、キャロライン・デ・ウルフがモデルとなった写真は生命力と豊穣を象徴している。

ブランジ自身も「one of my best」と評していた、シルバーと白樺のオブジェ「Silver & Wood」。

展示空間には、貴重な写真やドローイングとともに、1980年代半ばから2023年の最新作まで、時代を超えた作品が並ぶ。草木をモチーフにしたヘッドピース、シルバープレートを編み込んだバスケット、白樺や石を用いたオブジェや家具など、これら現代性と自然の要素を掛け合わせたハイブリッドな作品を通して、建築やデザインの枠を超えたブランジのクリエイティビティを辿ることができるだろう。それは、ルネサンス期のレオナルド・ダ・ヴィンチに代表される「ウオモ・ウニヴェルサーレ(万能の人)」、デザイナーという言葉が生まれる以前から使われていた「プロジェッティスタ(プロジェクトを考え、実践する人)」の姿を想起させる。

ペットを意味する「Animali Domestici」シリーズのチェア。

ニューヨークのギャラリー「フリードマン・ベンダ(Friedman Benda)」で発表された「Trees and Stones」シリーズも。

1991年に編集者のカルラ・ソッツァーニによって世界初のコンセプトストアとしてオープンしたディエチ・コルソ・コモは、現在、新オーナーである実業家ティツィアーナ・ファウスティの下、リニューアルが進められている。元OMAのイッポリト・ペステッリーニ・ラパレッリが率いるミラノの学際的なグループ2050+によるインテリアデザインも注目だ。什器はすべて可動式で、壁を取り払うことで回遊性が高められている。ミラノを訪れた際には、ファッション、デザイン、食の世界をつなぎ、文化と最新トレンドを発信する場所として、さらに進化を遂げるディエチ・コルソ・コモへぜひ足を運んでみてほしい。End