自動車業界における内燃機関からEVへのシフトは、やや後退気味にある。その要因のひとつが、もしもほとんどのクルマがEV化した場合に、仕事場から自宅に帰った自家用車や配送から拠点に戻った営業車両がいっせいに充電を開始した際の、ピーク電力の大きさだ。このタイミングをコントロールして電力網の負荷を分散させない限り、世界各地の発電量は確実に不足する。
その解決策としてメルセデスベンツが開発中の技術に「ソーラーコーティング」と呼ばれる「発電する塗装」がある。このコーティングの正体は、厚さわずか5μで20%という高い発電効率を実現する光発電塗料であり、希土類元素やシリコンを使用せず、リサイクルも容易という優れた特徴を持っている。加えて1㎡あたりの重量も50gと軽く、車重への影響が最小限で済むことも、従来のソーラーパネル自体を車体表面に貼りめぐらせる方式に比べて大きなアドバンテージとなる。
ソーラーコーティング自体はライトシルバー系の発色だが、こちらも新開発のナノパーティクルベースのペイントをその上から塗布することにより、太陽光エネルギーを94%も透過しながら既存車両と同様のカラフルな外装を実現できるとされている。
最大のメリットは、この技術を中型SUVに適用した場合、理想的な条件下では年間最大20,000kmの走行に必要な電力を生成できる可能性があるという点だ。例えば、自家用車の年間平均走行距離をネットで調べてみると、アメリカで約13,500km※1、ドイツで約14,259km※2、日本で約10,575km※2という数字なので、ソーラーコーティングによって日常的な充電を不要にすることは十分可能ということになる。
現時点では、耐久性やコスト、安全性の確保、既存の車体製造プロセスとの統合などの点で解決すべき課題があり、商業化の時期は明らかにされていないものの、あのメルセデスベンツが技術を公表したことから、開発自体はかなり進んでいるものと思われる。実用化されれば自給自足型でエクステリアデザインの自由度も高いEVが誕生することになり、改めてEVシフトを加速する原動力となりそうだ。