対談|隈 研吾×レイ・イナモト
テクノロジーの時代に必要なのは、「ノー」と言えること

Photo by Shotaro Tsujii

めまぐるしく変化していくテクノロジーは、建築やデザインにどのような影響を及ぼしていくのだろうか。世界50カ国で400ほどのプロジェクトが進行している建築家・隈 研吾と、グローバル企業のブランディングなど、ニューヨークを拠点に活動するクリエイティブディレクターのレイ・イナモトが、デザインとテクノロジーの未来を展望する。

トランスフォーメーションの時代へ

イナモト トヨタやユニクロをはじめとして僕は企業の経営層とビジネス戦略を考える仕事をしているのですが、現在の社会の状況は、90年代後半にインターネットがブワーッと広がり始めた頃に似ているように感じます。でもそれ以上の可能性を秘めている。生成AIが発達し、テクノロジーはどこまで人間の仕事を奪うのかと、不安視する声も聞こえてきます。そのテクノロジーとは何かということですが、3つの段階があると思っています。

ひとつが、オペレーション(操作)を変えていくテクノロジーです。紙やFAXが、メールに変わりました。次にクリエイション(創造)です。CGによるモデリングなど、それまで物理的に実践してきたことがバーチャルにシミュレーションできるようになり、不可能だったことが可能になってきました。そして3つ目がトランスフォーメーション(変換)です。

これが最も大きな変化をもたらすテクノロジーで、実現までには時間もかかります。自動運転がそのひとつです。人間が運転しなくなることで、移動空間にどういう用途が生まれ、可能性が広がるのか。まだ見えてきませんが、いずれにしてもテクノロジーは人間の生活や世の中をよい方向に変えていくことが求められます。

隈 建築と現代のテクノロジーの出会いは、1994年、コロンビア大学で教鞭を執っていたバーナード・チュミが取り組み始めたペーパーレス・スタジオが最初でしょう。紙を使わずにプログラミングで形をつくり3Dモデルを生成するという実験的な建築を始め、周囲を興奮させました。何かパラメータを入れると、見たことがないぐちゃぐちゃした形ができてしまう。フランク・ゲーリーやザハ・ハディッドの建築に代表され、パラメトリックデザイン、ブロックデザインなどと呼ばれました。でも僕はその流れを「何か違う」と思っていたんです。