日本の「祭り」をテーマに3カ国・60人の学生がデザインを競う
ISDWが千葉で開催

共同生活をしながら学ぶ6日間

日本、台湾、韓国の3カ国でデザインを学ぶ学生たちが一同に介し、共同生活を行いながらデザインワークショップを行う国際学生デザインワークショップ「ISDW(International Student Design Workshop)」が8月18日から24日にかけて、千葉県習志野市の千葉工業大学などを会場に行われた。

これは、公益社団法人日本インダストリアルデザイン協会(JIDA)とChinese Industrial Design Association(CIDA)、Korea Association of Industrial Designers(kaid)の3カ国のインダストリアルデザイン協会から成る組織「Asia Designer‘s Assembly」(ADA)が企画・実施しているもの。2002年に金沢で初めて開催されて以来、ほぼ毎年開催されており、2020年には新型コロナウイルスの感染拡大によって中止を余儀なくされたものの、翌年にはフルオンラインで実施するなど、20年以上の歴史がある。

参加者は、各国の大学でプロダクトデザインやインダストリアルデザインを学ぶ学生や大学院生の中から公募され、会場は例年各国の持ち回りで開かれている。今年は、日本からは千葉工業大学のほか武蔵野美術大学、東北芸術工科大学など8大学から、台湾からは国立台湾大学や国立台湾科技大学などから、韓国からはソウル科学技術大学校などからそれぞれ20人が参加。計60人が、3カ国のメンバーから成る10チームに分かれ、英語を公用語に共同生活を送りながらフィールドワークやワークショップを行った。

開催にあたっては株式会社アクシスのほか、公益財団法人三菱UFJ国際財団など6社がスポンサーとなり、習志野市と習志野市教育委員会が後援した。

日本の祭りをリ・デザインする

ワークショップは年ごとに開催地の課題などに沿ったテーマを設けており、今年のテーマは「#MATSURI – Summer Festival(Bon Odori)」。日本における盆踊りをはじめとする各地の祭りは、多くが先祖の魂を迎え歌や踊りなどを通して敬意を払うものであるとともに、地域社会における絆を深めるものである一方、ローカルコミュニティにおける人々のつながりの弱まりや世代間の隔絶が指摘されている。

今回参加した学生たちは、実際に日本の夏祭りに参加。祭りを取り巻く課題の解決策を探ることをテーマに、「祭り」のエッセンスを再定義し、そのあり方を探るとともに、デザインによってローカルコミュニティにおける新しい祭りのかたちを提案することに取り組んだ。

来日に先立って、参加者たちは1ヶ月前からプリオンラインコミュニケーションとして遠隔でミーティングなどを重ね、来日後は習志野市内でのフィールドワークに加え、千葉市内で開催された「千葉の親子三代夏祭り」や都内各所を見学。また、専門家の指導のもと、スポーツアイスブレイクや茶道体験などを通じてチームの絆を深めつつ、最終日に行われる各チームごとのプレゼンテーションに向けて、ディスカッションなどを続けた。

プレゼン前には、村田智明・大阪公立大学研究推進機構協創研究センター客員教授が、自身の提唱するメソッドを解説。課題を「バグ」として抽出し解決策を探るデザイン手法に基づいてワークショップは行われた。

注目のデザインメソッドから数々の提案が

ワークショップでは、『問題解決に効く「行為のデザイン」思考法』の著者で、大阪公立大学研究推進機構協創研究センターの村田智明・客員教授が、自身の提唱する「SSBF法(行為のデザインワークショップ)」と呼ばれるメソッドを解説。目的を設定し、「バグ(問題)」を抽出、バグの理由と解決策を探るとともに、ステークホルダーを選ぶことで解決策に優先順位をつけ、それらを結合・ミニマライズしていくというメソッドに沿って、参加者たちは実際に祭りに参加して見つけた「バグ」を抽出。それぞれにコンセプトを設定し、解決に向けた提案を検討した。

23日、千葉工業大学で行われた最終プレゼンテーションでは、10チームがそれぞれ課題と解決策を発表した。あるチームは、祭りの会場で露天が立ち並ぶ混雑した道では、老人や子供連れには動き回ることが難しいことを課題として「バグ」のひとつに挙げ、自動運転で会場を回れる小さなモビリティー「MATSURIDE」を提案。「実現すれば事前の予約にもとづいて自動で動くため、列に並ぶ必要がなくなる。三世代で一緒に祭りを楽しめるようになるはず」と話した。

自動運転型モビリティを提案するチームも。

また、別のチームは、「休憩できる場所がないこと」「フリースペースはすぐに混雑してしまうこと」を課題に挙げ、「使わないときは看板になる折りたたみ式のベンチ」「露天で食べ物を買うとフリースペースの利用チケットがもらえる仕組み」を提案。さらに、「地図と食べ物を一緒に持つことができない」「混雑の中ではぐれてしまうと見つけられない」という課題に対して、地図や会場案内図がプリントされた紙コップやフードコンテナを解決策として示したチームもあった。

車座になってプレゼンテーションを聴く参加者たち。終始明るく楽しげな雰囲気でプログラムは進められた。

ソーシャルデザインの観点からも

発表を行ったチームの多くが会場の混雑や外国語による案内がないこと、アレルギー情報の発信力不足といった課題をデジタルデバイスやインターネットを用いて解決する提案を行う一方、指で開けられるパンチ穴がついたカードで歩いてきた道順をたどれる地図をデザインしたチームや、ソーシャルデザインの観点からのプレゼンもあった。

指で開けられるパンチ穴がついたカードで、歩いてきた道順をたどれる地図のモックアップ。デジタルデバイスやインターネット環境を前提としない、シンプルかつローコストなデザインアイディアも目立った。

発表の場では、本格的なディスカッションの開始から2日という短時間でスマートフォンのアプリやウェブサイトを制作し、デモンストレーションを行うチームのほか、会場に道順などの案内が少ないことに対して「方向や案内などを地面にプロジェクションマッピングできるランタン」など、一風変わったデバイスを提案したチームがある一方で、焼き鳥などの串がゴミとして散乱している課題に対して、「持ち手部分がピンクになっており、串を刺していくとサクラのかたちが現れるゴミ箱」など、シンプルかつローコストなアイディアで課題解決を探るチームもあった。

加えて、既存のガードレールや手すりに付け加えることで簡易的な椅子とテーブルになるプロダクトを設計したチームに対しては、聴講者から「ぜひ実現して製品化してほしい」などの声が聞かれた。

10チームすべての発表後、審査員が「Best of ISDW2024」以下の各賞を選出。最優秀賞に選ばれたのは「ISSHO ISSHO(いっしょいっしょ)」をコンセプトとして、交通系ICカードに紐づいたリストバンドがゴミ袋ホルダーになるとともに、はぐれたときに互いの距離を示してくれるデバイスを提案したチームだった。同チームに対する講評では、「人混みの中でもお互いに離れ離れになる心配がなく、一緒にいられる安心感を届け、ゴミ袋も一緒に持ち運ぶことで環境にも配慮しつつ、Suicaの機能も一緒に備えることで、特に外国人の移動しやすさにも対応した」ことに加え、「身近に感じたいくつかの課題をブレスレットという手軽に身につけるものによって、しかも持つことが苦にならないという使い手の視点からスマートに解決した点」が評価された。

交通系ICカードに紐づいたリストバンドがゴミ袋ホルダーになるとともに、はぐれたときに互いの距離を示してくれるデバイスの案。厳密な位置共有機能などはあえて割愛し、互いの大まかな距離感を3段階の色で示すことにこだわったという。

「Best of ISDW2024」を受賞したチームFの面々。「ISSHO ISSHO(いっしょいっしょ)」をコンセプトにした提案を行った。写真左はJIDA理事長の太刀川英輔氏。

プレゼンテーションを聴講し感想を述べる宮本泰介・習志野市長。

最終プレゼンを聴講した宮本泰介・習志野市長は「祭りは地域におけるコミュニティの結びつきを強めるという意味で日本に限らずワールドワイドなものだが、一方で『バグ』が多い分野だとも思う。これまではそうした課題も含めて、地域の人が一緒につくりあげているという意味で楽しみの一つでもあったと思うが、やはり改善すべき部分はあると思う。この点に注目してデザインし直し、未来につなげようとする取り組みは、非常に価値あるものだと感じた」と話した。

学生たちの雰囲気は終始和気あいあいとしたものだった一方、解決策はいずれも短時間でまとめたとは思えないほど多角的かつ実際的な内容だった。日本における「祭り」は「祀る(まつる)」と語源を同じくし、そのほとんどが土着の神々への感謝に起源を持つこと、縁日などはその周辺的な要素であり「ハレ」と「ケ」の概念に関連していることなどをリサーチに踏まえたチームがあってもよかったようにも感じられたが——そうでなければ商業的イベントと見分けがつかなくなる——学生たちの提案はいずれも「誠実さ」に満ちていた。イギリスのデザイン評論家アリス・ローソーンいわく、よいデザインには「誠実さ」があるという。地域コミュニティーの課題を真正面から探り、多彩なバックグラウンドをもとにポジティブな雰囲気で検討を深めていく姿勢には、「よいデザインとは何か」を考えるうえでの深い示唆があるように感じられた。End