テクノロジーのぬくもりが生むデジタルデバイスの新基準

Nothingが初めて世に送り出した製品は、2021年7月に発表された完全ワイヤレスイヤホン「Nothing Ear (1)」だった。その後、年を追ってバージョンアップを続け最新の「Nothing Ear (a)」は24年にレッドドット・デザイン賞を受賞した。スマートフォンと同じく、「透明性」がデザインコンセプトの重要な位置を占めている。

スマートフォンやワイヤレスイヤホンのデザインが、まるで「収斂進化」を経たかのように代わり映えのないものになるにつれ、デジタルデバイスの差は、機能の多寡やスペックの違いによるところが大きくなっている。そんな風潮のなかで、ロンドンに拠点を置くデジタル製品ブランド「Nothing(ナッシング)」が生み出すプロダクトは、先鋭的でありながら、どこか親しみやすさを感じさせる。ユーザーとデバイスの関係性の再構築に取り組む同社独自のフィロソフィーを詳しく取材した。

嘘のないデザイン

Nothing は、起業家のカール・ペイが2020年に立ち上げたコンシューマ・テクノロジー・ブランド。「考える必要のない、ただ自然に日常生活に溶け込むテクノロジー」を標榜するNothing のコンセプトには、iPodの発案者であるトニー・ファデルやトゥイッチの共同創設者ケビン・リンなども投資側として賛同し、約700万ドルの資金を調達してローンチした。ペイは13年にスマートフォンブランド・ワンプラスを共同設立し同社を数十億ドル規模に成長させた経歴を持ち、Nothingは彼が鳴り物入りで発表したブランドだ。

注目すべきは、同社の創業パートナーにスウェーデンのデザインスタジオ「ティーンエイジ・エンジニアリング」が加わっていることだろう。ノスタルジーを誘うような見た目とともに、現代のデジタルデバイスに対するアンチテーゼを秘めた同社のデザイン哲学を、Nothingは共有しているという。

24年4月から同社の日本におけるマネージングディレクターに就任した黒住吉郎は、Nothing が日本でも販売するスマートフォン「Phoneシリーズ」を手に、同社のコンセプトをこう説明する。